Flower/2

 昔、男の子が居ました  男の子にはお父さんがいません、お母さんも居ません  男の子は独りぼっちでした  そして  男の子には名前がありませんでした  だから誰も男の子のことを呼びません  誰も男の子に気を留めようとはし...

Flower

 花を植えよう  色とりどりの花を、沢山  たくさんの花を、植えよう  この広い庭を埋め尽くすほどに  花壇をいっぱいの花で飾ろう  次に君が目覚めたときに  ひとりぼっちで寂しくないように  花を、植えよう  世界中を...

Shake!

 普通に彼は歩いていたはずだった。  ユーリの城はそこそこ歴史があって古く、一部建て付けの悪い箇所があることは知っていた。最近、どこぞの床が抜け落ちそうだから気を付けるように、とアッシュから連絡は受けていた。  だが、ま...

Moonshine

 廊下を歩いていると、ふと風を感じた。 「……?」  小首を傾げ、スマイルは周りを見回した。微かだが屋内に吹き込んできている風が彼の前髪を揺らしている。冷たい、秋を思わせる風だ。 「あ、と……」  少しだけ歩を進め、もう...

away

 けたたましい、乗用車のブレーキ音が周囲に鳴り響いて。  続いて、慌てて北へと走り抜けていく白い4WDが。  周囲に人影はなく、車が走り去ってしまうと辺りはまたシン……と静まりかえってしまう。  彼は、乗用車が消えていっ...

aqua

 くらやみ、が  ひたひたと足音を立てて追いかけてくる  そこから必死に逃げようと  胸が締め付けられても走り続けているのに  やみを振り切ることができなくて  やがて足に絡みついた  まっくろい、やみが  この身体すべ...

Reconcile

 カチャカチャと響く金属音以外に、今この空間に音はなかった。 「…………」 「…………」  同じようなむっつりとした顔をし、食器を動かしているのがふたり。その間に挟まれるような形でおろおろと、両方の顔を交互に見ながら食事...

Shell

 唐突、に。 「海に行きたい」  なんて君が言うから。 「は?」  聞き間違いかと思って間抜けな顔をして振り返ってしまった。  けれど意外に近くにあった君の顔は至極真剣で、からかうような彩は紅玉の瞳にまったくなかった。 ...