FullMoon
満月。 薄く棚引く雲を従えて朧気に、そして儚げに淡い光を放っている月。 けれど月は自分ひとりでは輝けないんだよと、遠い昔に誰かが言った。月は、自分を照らしているのに自分からは見えない太陽を捜して夜を彷徨っているのだ...
満月。 薄く棚引く雲を従えて朧気に、そして儚げに淡い光を放っている月。 けれど月は自分ひとりでは輝けないんだよと、遠い昔に誰かが言った。月は、自分を照らしているのに自分からは見えない太陽を捜して夜を彷徨っているのだ...
買ったばかりでまだ封も開けていない煙草を置き忘れたことに気付いた。 しまったな、と心の中で自分の失態に舌打ちしながら今来たばかりの廊下を戻り始める。分厚いカーペットが敷かれた廊下に足音が響くことはなく、柔らかな毛並み...
喧嘩を、した。 きっかけはとても些細なことだったはずだ。だのに途中からお互いに引き下がれなくなって、子供じみた罵詈雑言を早口に捲し立てていた。そしてカッと頭に血が上ったまま、反射的に手を上げていた。 ぱぁん、ととて...
その日は朝からずっと、雨だった。 どんよりとした空は今にも落ちてきそうなばかりで、鈍色の雨雲は何処までも世界を覆い尽くしている。地平の果てまで続いていそうな雲に、一面ガラス張りの窓から外を眺めていたユーリはふっと、息...
あふ……と欠伸をしながら、大きく腕を頭上に伸ばしてみる。その仕草に、横でドラムスティックをお手玉がわりにしていたアッシュが首を捻った。 「寝不足ッスか?」 かつっ、と彼の手元から離れたスティックが床に落ちて跳ね、少し...
ちらちらと感じる視線。 しかしその視線の持ち主の姿は何処にも見当たらない。 だのにしっかりとした意志を内包している視線は確実に、存在している。 休ませることなくフォークとナイフを持つ手を動かしながら、ユーリはさっ...
重なり合う金属音は一定で、淀みがない。 本当ならそれは雑音でしかないはずなのに、彼の手が動くたびに奏でられる光沢のある音はそれすらもひとつの音楽のようで、聴いていると心地よい。 かりゃり、と。擦れ合った銀の食器が彩る...
波のように押し寄せる、それは魂の叫び。 風のようであり、だがそれは布地や髪を揺さぶることはない。けれど確かにその波は存在し、自分たちに向けて押し寄せてきている。その波に呑まれてしまわぬよう、己は懸命にかいなに抱くベー...