Wood
彼は今日も、その場所にいた。 小高い丘の頂上にぽつんと、寂しげに腕を空へと伸ばしている木の下。 まるでそこが彼の定位置であるかのように、決まってその場所の西側に座っている。ほんの少し根が盛り上がって、土と緑の草の間...
彼は今日も、その場所にいた。 小高い丘の頂上にぽつんと、寂しげに腕を空へと伸ばしている木の下。 まるでそこが彼の定位置であるかのように、決まってその場所の西側に座っている。ほんの少し根が盛り上がって、土と緑の草の間...
軽やかに鳴り響くピアノの音色に、広すぎる城内を彷徨っていた彼女はふと、足を止めた。 案外に近い。防音設備が整っているからだろうか、この距離にまで接近しなければ気づけなかった音色に僅かに首を傾げ、彼女は音がする部屋の扉...
両手を伸ばせば届くかも知れない、けれど指先を掠めもせずにどう頑張っても届かない――永遠に手に入らない距離が、確かに存在している。 きっとその背中に綺麗な真っ白い翼があったなら、届く事が叶うかも知れないけれどそんな高望...
薄い雲が空を流れていく。 僅かに肌に感じる風は西から東へと吹きつけ、一本の古木に背を預けている彼らに短い挨拶を送るとそのまま、あっさり過ぎるくらいに立ち去っていく。 風を縛り付けるものはなにもないから、それも無理無...
夕暮れが終わると、闇は一気に押し寄せてくる。足許に長く伸びていた影も、やがて日が沈むと同時にゆっくりと薄くなり、やがては闇に同化して消えて行ってしまう。 そして、世界は闇に包まれる。 けれど、闇は優しい。 まだ...
気分転換にギターを片手に、もう片手にギャンブラーZのフィギュアを持って公園に出かける。 公園と言っても、そこは何もない一面の平原。ぽつりぽつりと聳えるのは背が低い割に枝は広い、名前も覚えていない樹木ばかり。その隙間を...
吹き付ける風が、少し冷たくなった。寒さを覚え、彼は肩を振るわせる。 一瞬出そうになって身構えたくしゃみは、実際ただのポーズだけで苦笑してしまう。鼻の頭を擦りながら、彼はなるべく下半身を動かさぬように心がけながら腕を頭...
瞼を閉ざす前に見た光景は、澄み渡る、それこそ嫌気がさしそうなくらいに眩しい青空と、それを遮る優しい木立の陰。 再び瞼を開いた時に目の前にあったのは、陽射しを遮る木立の陰に同化したように、けれど異質さを兼ね備えている黒...