a Smorker

 目聡くそれを見つけられたのは、ほぼ奇跡に近い。  人外の、獣としての嗅覚がその結果を導いたとしたら、それはとても皮肉なのだけれど。   「スマイル」  城のフロントロビーにあたる場所ですれ違った彼に声をかけ、呼び止める...

a trifle

 のんきに鼻歌を歌いながら、リビングの扉を開けたのは丁度陽も翳り始めた夕方の五時ごろだったかと思う。今日の夕食の献立のチェックと、誰も使っていないようであればテレビを占領してやろうという程度の魂胆で足を踏み込んだ場所は、...

insanity

 春が来る。  淡い薄紅色に染まった空から、はらはらと降り注がれる小さな花びら一枚一枚が、まるで天から舞い落ちる季節外れの雪のようで見つめるうちに自分がいる場所が果たして現実か、夢の中の幻想なのかが区別もつかなくなりそう...

Smart Fantasia

 久方ぶりに繰り出した街は、今日が週末という事も合ってかかなり混み合っていた。  空を見上げれば澄み渡る冬の空、しかし浮かれ気分の街の姿は寒々とした雰囲気と熱波のような空気とが入り交じる不可思議な空間と化していた。  道...

Snowfall

 夜の空は、昼間の面影を残し紫紺色に染まってもなお、天の色が見て分かる程に澄んでいた。空気は透明で儚く、虚ろであり純粋で、冷たく厳しいがそれでいて、時にとても優しい。  冬の大気に解けてしまいそうで、吐く息の白さに目を見...

True Chime

 空は澄み渡り、千切れた白い雲が西に僅かに見える以外はどこまでも晴天が広がっている。天頂は高く、吹き荒れる風も無く静かでとても穏やかな日差しが地上に降り注がれていた。  おそらくは暖房の効いた暖かい室内に在って、曇りひと...

Cool Morning

 ひんやりとした空気が頬を撫でる。風こそ無かったが澄み渡った空の色に吸い込まれそうで、首が痛むのも構わず空ばかり見上げているうちに鼻の奥がむずむずとしてきた。 「くしゅっ!」  我慢できずに露出する片目を閉じて身体を前屈...

that Day

 欠伸を噛み殺し、眠い目を擦ったユーリは気を抜くと左右に揺らいでしまいそうになる両足を叱咤して廊下を歩いていた。細く長い通路は永遠に続く闇の中に溶けて消えてしまいそうで、終わりがないように思えてしまうのが不思議だ。明け方...

a Day

 夜半過ぎまで降っていたらしい雨は、明け方には止んだらしい。まだ少し濡れている地面を蹴り飛ばし、早朝の冷えた空気の中、スマイルは薄く靄が立ちこめている空を見上げて息を吐いた。  雨に洗われた空気が思いの外気持ちよくて、気...

Nothing

 それは、何もない一日の、なんでもない出来事。  予定されていた写真撮影が、先方の都合により急遽延期となったという連絡が入ったのは、当日の僅か二日前。  忙しいスケジュールに無理を言って組まれていた、丸一日使用しての撮影...