Lamppost
「あれ……」 闇の中、点々と明かりを燈す電信柱の前を自転車で走り抜け、更に左に曲がろうと軽く腰を浮かせてブレーキに力をこめようとしていた時だった。 曲がろうと狙いを定めていた空間の僅かに手前、街灯に足元を照らされた電...
「あれ……」 闇の中、点々と明かりを燈す電信柱の前を自転車で走り抜け、更に左に曲がろうと軽く腰を浮かせてブレーキに力をこめようとしていた時だった。 曲がろうと狙いを定めていた空間の僅かに手前、街灯に足元を照らされた電...
台所で洗い物をしていたら、不注意からガラスのコップを床に落として割ってしまった。 「あちゃ~」 失敗したと舌を出し、頭に手をやって床の上で粉々に砕け散っているガラス片を前にに途方に暮れる。普段ならばやるはずの無いミス...
その日は、とても良い天気だった。仕事などせず、どこか適当な場所で午睡を貪りたくなる、暖かな日差しに適度な温さの風が吹く、良い日だった。 だが悲しいかな社会人である身はそんな自由人の生活を許さず、ただ黙々と手を動かし続...
もういいかい まぁだだよ 長い間眠っていた。 ただ虚無に流れていく時間が空しかったから。 永劫の時を刻む身体には歳を重ね...
ゆうやけこやけで ひがくれて どこかから歌が聞こえてきた。 やまのおてらのかねがなる 近いようで、遠い。遠いようで、近いような、そんな曖昧な距離で、子供達が歌っている。 ...
風が吹いていた。 「……?」 自室へ戻ろうと、暖かな湯気を放つマグカップを手に歩いていたユーリはふと、前髪を揺らす空気の動きに気づいて目を細めた。 思わず足を止めて上目遣いに細い銀の髪が揺れる様を眺めてしまう。どこ...
締め切り前の気晴らしという口実で出かけた市街地。 雑多に色々なものが交じり合い、原型の分からない色で溢れかえっている空間を遠巻きに眺めてみる。 本屋には行ったし、レコードショップにも行った。目当てのものは本屋だと二...
「なんていうか、さ」 「ぅん?」 突然、彼は足を止めて爪先を茶色いブロックで覆われたの地面に押し付けた。ぐりぐりと足首をねじり回し、俯いて先に呟いた言葉から先を続けない。まるでいじけているみたいだ。 彼が立ち止まった...
カッチ、コッチ。 カッチ、コッチ。 規則正しく、駆け足になったりも、のろのろ運転になったりもしない。 焦ることなく、迷うこともない。 カッチ、コッチ、カッチ、コッチ。 毎日、同じ時間をかけて同じ回数回り続ける...
うららかな日差しが心地よい。長かった冬が漸く終わりを迎え、緩んだ水が大地を潤す季節がやってきた。 暑すぎず、寒すぎず。時折吹く風はまだ若干冷たく感じられるが、それもさほど苦ではない。胸いっぱいに息を吸えば、どこかで芽...