Eyes/1
ユーリが、失明した。 人通りの多い駅の階段で後ろから押されて、急いでいた所為もあったのだろうけれどバランスを崩してそのまま一番下の踊り場まで落下。大体十段ほどは落ちたのではないだろうかと、見ていた人が言っていた。 ...
ユーリが、失明した。 人通りの多い駅の階段で後ろから押されて、急いでいた所為もあったのだろうけれどバランスを崩してそのまま一番下の踊り場まで落下。大体十段ほどは落ちたのではないだろうかと、見ていた人が言っていた。 ...
最近どうも、仲間達が冷たい気がする。 リビングのソファでくつろぎながら、ユーリはそんなことを考えていた。 忙しそうに室内を掃除して回っているアッシュも、何故かユーリの方を見ようとしない。いつもならユーリの視線に気付...
緩い陽光に照らし出されたテラスは、庇の影に紛れて少しだけ気温が低くなっている。 まだ本格的な夏には遠く、幾分過ごしやすい天候が続いているが気温が低いのは日陰である以外にも、夜中中降り続いていた雨が止んだ事にも理由があ...
独りで居るよりは、誰かと触れあってその温もりに安心していたい。 けれどその環境に慣れてしまったとき、失った時の喪失感はとても大きくて自分は酷く脆く砕けてしまいそうになる。 だから、求めないことにした。 温もりを手...
満月。 薄く棚引く雲を従えて朧気に、そして儚げに淡い光を放っている月。 けれど月は自分ひとりでは輝けないんだよと、遠い昔に誰かが言った。月は、自分を照らしているのに自分からは見えない太陽を捜して夜を彷徨っているのだ...
買ったばかりでまだ封も開けていない煙草を置き忘れたことに気付いた。 しまったな、と心の中で自分の失態に舌打ちしながら今来たばかりの廊下を戻り始める。分厚いカーペットが敷かれた廊下に足音が響くことはなく、柔らかな毛並み...
喧嘩を、した。 きっかけはとても些細なことだったはずだ。だのに途中からお互いに引き下がれなくなって、子供じみた罵詈雑言を早口に捲し立てていた。そしてカッと頭に血が上ったまま、反射的に手を上げていた。 ぱぁん、ととて...
その日は朝からずっと、雨だった。 どんよりとした空は今にも落ちてきそうなばかりで、鈍色の雨雲は何処までも世界を覆い尽くしている。地平の果てまで続いていそうな雲に、一面ガラス張りの窓から外を眺めていたユーリはふっと、息...
あふ……と欠伸をしながら、大きく腕を頭上に伸ばしてみる。その仕草に、横でドラムスティックをお手玉がわりにしていたアッシュが首を捻った。 「寝不足ッスか?」 かつっ、と彼の手元から離れたスティックが床に落ちて跳ね、少し...
ちらちらと感じる視線。 しかしその視線の持ち主の姿は何処にも見当たらない。 だのにしっかりとした意志を内包している視線は確実に、存在している。 休ませることなくフォークとナイフを持つ手を動かしながら、ユーリはさっ...