Thumb

 コーヒーでも飲もうと思い、リビングに降りていくと先客が居た。  先客といっても、元々はこの城の主であり自分が所属するバントのリーダーなのだが。  扉を開けたちょうど真向かいに置かれているリビングソファーに、こちらに背を...

Rustle

 気まぐれにテレビをつけると、嵐が接近中というテロップが丁度上の方に流れているところだった。 「へぇ……」  そういわれて見れば、窓の外の雲行きはどうも怪しい方向へ向かっている。灰色の重たそうな雲が空一面を覆い尽くそうと...

coincidence

 台所で洗い物をしていたら、不注意からガラスのコップを床に落として割ってしまった。 「あちゃ~」  失敗したと舌を出し、頭に手をやって床の上で粉々に砕け散っているガラス片を前にに途方に暮れる。普段ならばやるはずの無いミス...

Silhouette

           ゆうやけこやけで ひがくれて  どこかから歌が聞こえてきた。            やまのおてらのかねがなる  近いようで、遠い。遠いようで、近いような、そんな曖昧な距離で、子供達が歌っている。  ...

a Day

 夜半過ぎまで降っていたらしい雨は、明け方には止んだらしい。まだ少し濡れている地面を蹴り飛ばし、早朝の冷えた空気の中、スマイルは薄く靄が立ちこめている空を見上げて息を吐いた。  雨に洗われた空気が思いの外気持ちよくて、気...

Somehow

 かたかたと、薄っぺらなキーボードを叩く指先がふとした瞬間に停止する。 「ん~……」  眉間に皺寄せ一瞬考え込んでから、宙で制止させていた指先をまた規則正しく動かして四角形の液晶モニタに文字を打ち込んでいく。  時々消し...

Transparent/2

 すっかり冷え切ってしまった身体を引きずって、屋内へ戻る。  広すぎる城内全体に暖房を行き届かせる、などという無駄な事はもうひとりの押し掛け同居人が許すはずが無く、壁ひとつが風を遮ってくれているものの、まだそこは寒かった...