クローバー

 多分、一生で一番、笑顔でいられた時間だから  君を失いたくないと願った俺のわがままは  こんな迷信でしかないただの草に叶えられるものではないと  よく分かっているけれど  クローバー、お願いだ  この時間を俺から奪わな...

いつか君に還る願い

 白い雪が舞い降りる。まだ平野部ではそれが舞うには早い季節だったが、道端にはいつ降ったのか、既に溶けかけた雪の固まりが山になっていた。恐らくこの先の村の人々が通りやすいようにと、道に積もった雪を脇に除けたのだろう。だが、...

いつか君に届く想い

 はらはらと空を雪が舞っている。この季節、平野に降るにはまだ早い雪もこの山間部では関係ないらしい。道端には溶けかけの先日降り積もった雪の名残が白く輝いており、見知らぬ世界に初めて訪れた冒険者達は、わくわくした気持ちを抑え...

邂逅

 小春日和の午後の町を、薄手のコートを羽織った少年がひとりで歩いていた。  年の頃は13,4歳だろうか。見た目はもう少し若いかもしれないが、うつむき加減で大通りを北に進む少年の眼は、とても十余年しか生きていない子供が宿せ...

英雄の墓標

 空はどこまでも青く、広く、穏やかだった。  まるでこの戦乱狂気の時代を嘲笑うかのように、ひそやかにそして艶やかに、空はいつもそこにある。  地上に生きる卑小な人間の愚かな騒乱になどまるで興味を示さないで、風を運び雨を降...

白の版図

子供たちへ  その道は非常に険しく、茨の道であろう  辛く、苦しく、また悲しみに満ちた永い道となるだろう  だが決して諦めてはならない  己自身で決めた道であるならば  最後まで貫き通す事を忘れてはならない  はじめに、...

宕冥

 リドリーが死んだ。  その現実の重さがセレンの肩にずっしりとのしかかっている事は誰の目にも明かで、暗く沈んだ空気を感じラスティスは今日何度目か知れないため息をついた。  彼が逃げ出した理由がよく分かるから、あえて止めよ...

陽炎

 トゥーリバーからキバ将軍の軍を退けた後、彼らはかつてのノースウィンドゥ、今はレイクウィンドゥと名を変えた城に凱旋した。待ちかまえる仲間達からはよくやったという言葉が雨のように降り注がれ、苦しい戦いに勝利したことを誰もが...

虹の橋を渡れ

 昔、まだ世の中が今よりも平和だった頃  よく母が語ってくれたおとぎ話  どうしても最後が思い出せない  あれはなんという話だっただろう……  ハイランド王国、ルカ・ブライトとの戦いもいよいよ佳境に突入しようとしていた。...

青き誇り

 敵を眼前にしておきながらそれらに背を向けて撤退するということは、騎士としてあるまじき行為であり、最大の恥辱であると彼は考えているらしい。助けられるはずの多数の命を見捨てたという念もあるのだろう。自領へ戻ってからしばらく...