風の訪れ

 時代は変革を望み、嵐は平穏を望む人々を容赦なく呑み込んでゆく  争いある火種はすでに高くまで昇り、あとは全てを捧げる哀れなる羊を待つばかり  選ばれし事を幸運とは言わぬ それは限りなく不幸である  汝はその魂の欠片まで...

業であるが如く

 暗い闇の中で、君はいつも、そうやってひとりぼっちで泣いていたのかい……?  泣いている。  泣いているんだ、子供が。  声を殺しながら、自分が泣いていることを誰にも悟られないように、泣いている。  暗いくらい闇の中で、...

世界が変わるとき

 彼は願う  願いは想いになる  想いは力となり、力は彼を強くする  その瞳の彩は鋭き刃のよう 気高き獣のよう  全てを切り裂き、己が信念を決して忘れ去らぬ  亡者のごときその力強さ  ──黒き刃の紋章よ。もし本当にお前...

獣の闇

 荒い息、激しく上下する肩、したたり落ちる汗。 「はあっ……はあっ……はあっ…………」  握りしめた剣の柄に温かいものが伝い、指の間に染み込んでゆく。ねっとりとした感触が彼の頬から首筋に流れ、やがて肩に沈んだ。 「……あ...

生きるチカラ

 自分の生きる意味がなんなのか、ひたすら考えた時代もあった  答えなど見付からなくて、ならば創ればいいと考えた  そして……  意味などなくとも人は浅ましく生きていくことに気付いた  何もしなくても腹は空く。何もしなくて...

罪人の生

 あの光に包まれて、空へ還ることが出来るなら………………  蛍が舞っていた。  淡い淡い光が、闇空を静かに昇っていく。まるで死者の魂が空へ還っていくようで、厳粛な儀式のようで、セレンは何故か胸が締め付けられる思いでこの光...

蛍火

 綿雪のように降る光。あの中で君は何を願い、祈るのか………………  昼時を過ぎたキャロの町を、一台の馬車がゆっくりと走っていた。  控えめながらも荘厳な飾りをあちこちにちりばめ、窓にはカーテンが掛けられているため中にいる...

遺志

 その町に立ち寄ったのは、本当にほんの気まぐれからきた偶然だった。夕暮れ間近の町の大通りを、今夜の宿を探しながら歩いているときに、突然空から女が降ってくるだなんて、きっと俺だけでなく誰も、予想していなかったに違いない。 ...

夜明けの星

 赤き星が静かに輝いている。  トラン湖をぐるりと囲むようにして成立している巨大国家、赤月帝国の首都グレックミンスターの頭上に、人知れず、いつの頃からか赤い星が現れるようになっていた。  しかし星の下で暮らす人々の多くは...

Dear

 秋の空は高くどこまでも澄んだ色が続いている。鳶が円を描いて舞っている下で吹き抜けていった風は思いの外冷たく、濃緑色のマントの下で彼はひとつ身震いをした。  数年ぶりの故郷への帰還。それは本来の予定にはない行動だった。 ...