章姫

 穏やかな陽気が窓から差し込んで、薄い白のカーテン越しにも外がどれくらい暖かな陽射しに包まれているのかが分かる。早朝、通い慣れた道を進んでいる最中も風は殆どなく、走れば背中に薄ら汗が浮かぶような麗らかさだった。
 それなのに、この人ときたら。
 沢田綱吉は現在、在籍する並盛中学校の、一般生徒ならば一生に一度入るかどうかという応接室の中にいた。
 三人は楽に並べるだろうクッションの良い革張りのソファの中央にどん、とひとりで居座り、以前自分で持ち込んだ柔らかなオレンジ色のクッションを胸に抱き締め――もとい、抱き潰していた。
 円筒形のビーズクッションのさわり心地は非常に良い。大きさも綱吉の体格でなら胸に抱えるには丁度良くて、本人もかなりお気に入りだった。たまに雲雀が勝手に枕として使用しているところを目撃することもあったが、それはそれで別段構わないと綱吉も思っている。
 モノトーンカラーで覆いつくされている応接室の中で、異様な色彩を放つクッション。その中央部分を今、綱吉は腹の前で縦に構えて力いっぱい両腕で押し潰していた。
 上と下で二分されたビーズに、締めあげられた布地が悲鳴をあげている。このまま真ん中でふたつに千切ってしまえそうな勢いが綱吉の中にはあって、彼は行き場のない怒りをそうやってどうにか押し止めていた。
 彼の視線はさっきからずっと、応接室奥に鎮座する大振りの机に向けられている。重厚な作りはいかにもこの部屋に置くに相応しい風格を示しており、更にその前に座す人物は威風堂々といった様子で、そこに座るのが当たり前の顔をしていた。
 静かな室内には、部屋の角に設けられた換気扇が回転する低く小さな唸り声と、机に向き合って座りながら職務をこなしている人物が握るペンの、カリカリという神経質とも思える筆圧の音だけが響いていた。
 室内の静けさは何も今に始まったことではないが、折角、わざわざ、こちらから人が出向いているというのに、無視の一手とは些か酷くはないだろうか。
 確かに今日は特別用事があるわけでもないし、用件を言いつけられて呼び出されたわけでもないのだけれど。あちらも綱吉の訪問は予定外だったらしく、追い返されなかったが歓迎された様子もない。ひとまずソファに座るのだけは許してもらった、仕事の邪魔をしないという約束で。
 風紀委員の何がそんなに忙しいのだろう、いつも手当たり次第に校則違反を見つけては一方的に取り締まっているだけなのに。
 常々疑問に思っているが、答えを求めたことは無い。実際問題彼は毎日忙しく動き回っていて、綱吉の相手をしてくれる時間なんて日に十分もあればマシなほうだ。そのくせこちらが忙しい時に限って無体な用事を言いつけたり、横暴な呼び出しを仕掛けたりしてくるものだから始末が悪い。
 ひょっとしてそういうタイミングをわざと狙っているのだろうか、と握りつぶしたクッションを横に引き伸ばした綱吉は、びよーんと伸びる生地から視線を持ち上げた。ちらりと盗み見るのは、勿論机の前に座って仏頂面を崩さない人。艶やかな黒髪がぎりぎりまで絞られた照明を浴び、薄く輝いている。今はトレードマークである学生服を羽織らず、白無地のシャツ一枚姿。ネクタイは結ばずに襟元を広げて寛いでおり、だから綱吉の目線からでも彼の鎖骨がよく見えた。
 ――って、俺、何処見てる!
 意識すると同じ場所にばかり目が向いてしまい、綱吉は赤い顔をして慌てて視線をそらした。
 腕の中のクッションを今度は大事に抱き締め、円形部分に顎を沈める。背中を丸めてだらしない姿勢をしながら真向かいの壁を何とはなしに眺めた綱吉は、ついつい無意識のうちに溜息を零していた。
 コトン、と硬いものどうしがぶつかり合う音が微かに耳を打ち、肩を僅かに持ち上げる。伸び上がった背筋に尻を預けているソファが少しだけ沈み、ジャケット越しの背中に圧力を感じた。背凭れに体重を半分乗せた綱吉はゆるりと首を巡らせ、音がした方向に顔を向ける。
 泣く子も黙る並盛中最高権力者、雲雀恭弥がその先に。
 やや不機嫌そうに眉間に数本の皺を寄せ、左腕で頬杖をついていた。
「なに?」
「え?」
 急に問われ、綱吉はきょとんと目を丸くした。
 何を聞かれているのかが分からず、綱吉はビーズクッションに指を埋め込んで首を捻る。自分は自分が意識しない間に彼に呼びかけたのだろうか、と真剣に考え込むが答えは当然ながら出てこない。そもそも綱吉がこの部屋に来てからずっと、両者の間には一切の会話が成立していないのだ。
 そんな状態で「なに?」と聞かれても反応のしようがない。
 だのに雲雀は頬杖をついたまま、反対の手で神経質気味にシャープペンシルを転がしている。彼の手元には書類が複数枚重ねられており、傍らには処理が終わったと思しき紙の山が出来上がっていた。
 大体、今年卒業のはずの彼がまだ業務を後輩に引き継がずにいるのがおかしい。ひょっとしてまだ在校生として居座るつもりなのだろうか、彼は。
 この人ならばやりかねないな、と思うと同時にもう一年一緒にいられるなら嬉しいとも感じている自分がいて、綱吉は雲雀の視線を真正面から受け止めつつ唇を持ち上げて拗ねたような、困った顔を作った。
「あの……」
「退屈なら、帰れば?」
「む」
 溜息をついていたのを指摘され、綱吉は口を紡ぐ。確かに退屈ではあるが、その原因に言われたくはない。かといって大人しくこのまま引き下がるのもかなり癪に障って、綱吉はクッションを抱えなおすとどっかりとソファに体重を全部預けてしまった。
 仰向け気味にもたれかかり、両脚を前方に投げ出す。跳ね上がった脛がテーブルの天板に内側からぶつかって、微かな痛みを覚えたものの綱吉は無視を貫いた。
 追い出されるだなんて真っ平御免だった。まだ雲雀が卒業するか居残るか分からない今、少しでも一緒にいられる時間を大切にしたいと思っているだけなのに、無碍に扱われてしまうと胸の中のもやもやした気持ちがどんどん大きくなっていく。
 彼が冷たいのは昔からだから、これくらいで泣いていたら話にならない。そういうところも全部含めて、自分は彼の隣にいることを選んだのだから、我慢もするし耐えてもみせる。
 ただ、矢張り少し哀しい。
「いーっえ。退屈なんかしていませんので、どうぞご心配なく」
 それよりもさっさとお仕事済ませちゃってください。そっぽを向きながらつっけんどんに言い返した綱吉に肩を竦め、雲雀は横たわらせていたシャープペンシルを指で弾き、飛び上がったそれを空中で捕まえた。
 流れるような鮮やかな手さばきに思わず拍手を送りそうになり、綱吉はクッションを掴む手から力を抜いたところでハッと我に立ち返った。今は彼に対し怒っている最中だというのに、一秒の間に現実を呆気なく忘れ去ろうとしていた自分が嫌になる。
 綱吉に言われたからではなかろうが、職務に戻った雲雀は既に綱吉の姿を眼中から追い払っていて、生真面目な表情で書類と向き合っていた。
 彼の書く文字はやや角張っていて、変に乱れたりもしないので非常に読みやすい。綱吉の書く字とは随分と違う、鉛筆の持ち方からして違うのだからそれも当たり前なのかもしれない。
 一度、綱吉のノートを覗き見た彼に、あまりにも汚い字を呆れられて正しい鉛筆の持ち方を教え込まれたことがあった。けれど綱吉は最後まで習得できなかった、意識する最初は出来ても次第に慣れている間違った持ち方に崩してしまうのだ。
 改めて雲雀を見詰めると、彼はピンと背筋を伸ばし、嘗て綱吉が教わった正しい筆の持ち方を実践して文字を書いている。切れ長の瞳を時に細めながら、右へ左へと黒目を動かして素早く書かれている内容を読み取り、理解していく様が手に取るように分かった。
 彼のようになりたいと思う、なれるかどうかは別として。綱吉の明確な目標に据える人物は彼と、ディーノだ。
 そうえいば今頃、彼はどうしているのだろう。
 不意に蘇った金髪の青年を思い出し、綱吉はぼんやりと視線を雲雀から天井付近へ流した。片腕を引いてクッションに肘を置き、広げた掌に顎を載せる。自然と折れ曲がった中指と薬指の爪が赤い唇を掠め、気まぐれに広げた隙間に薬指が勝手にもぐりこんでいった。
 キャバッローネファミリーを率いるボスとして、彼もまた日々忙しく動き回っていることだろう。
 部下がいなければ綱吉並に失敗だらけで、けれどやるときはきっちりとやり遂げる強い気心の持ち主。どうせボスになるのなら彼のような、多くの人に慕われる人間になりたい。薬指を唇の表面で甘く噛みながら、彼との出来事を振り返る。酷い目にも遭ったけれど、大まかにディーノと過ごす日常は楽しかった。
 また会いたいな、遊びに来ないかな。日本とイタリアは遠いけれど、可愛い弟分の頼みならジェット機でも飛ばして駆けつけてくれそうな気がする。自分には兄弟がいないし、家にいるのは小さな子供ばかりだから自分が兄役で休む暇がない。その分ディーノならば多少の我が儘も大目に見てくれるし、甘えても文句を言わずに付き合ってくれる。
 どうしよう、もうじき春休みだし本当に電話でもしてみようか。桜が見たいとも言っていたし、みんなで花見をすると言えば彼もきっと来てくれるに違いない。
 いいな、そうしよう。帰ったらリボーンに相談だ、と綱吉は大勢ではしゃぎ回る花見の光景を想像して含み笑いを零した。
 肩を窄め、目尻を下げて声もなく笑う。腕を下ろすと同時に顔の下半分をクッションに埋めた綱吉は、不意に耳に響いた物音にギョッとした。
 顔をあげ背筋を伸ばし、横を向く。
「ヒバリさん……?」
 急に、どうしたのか。それまで静かに仕事に没頭していた彼なのに、いきなり椅子を蹴り倒すようにして机に両手を叩きつけ、立ち上がったのだ。投げ捨てられたシャープペンシルが紙の山の裾野にぶつかってどうにか止まる、勢いで巻き上げられた書類が何枚か、落ち着き場所を求めてふらふらしていた。
 呆気に取られる綱吉の前で、先ほどまでの不機嫌に輪をかけた不機嫌さを漂わせた彼は荒く息をひとつ吐き出すと、俯き加減だった顔をそのままに身体を反転させた。
 視線を合わせようとしない。態度からも綱吉を拒絶しているような素振りに、いよいよ綱吉は泣きたい気持ちに駆られて唇を噛んだ。
 雲雀は数歩で到達できてしまった窓辺で一旦足を止め、緩く首を横へ振った。カーテンに阻まれて外が見えないのと同じく、綱吉の位置からでは雲雀が今どんな顔をしているのかが分からない。怒っているのか、呆れているのか。せめて声のひとつでもかけてくれたなら彼の感情も多少は読み取り易くなるのに、と綱吉は抱いたクッションに膝を押し付けて踵を持ち上げた。爪先を揺らして靴を外し、足の裏をソファの端に引っ掛ける。
 雲雀は無言のまま、綱吉が丸まって縮こまっているのにも気付かず、右手を胸の高さに持ち上げると徐にカーテンを横に引いた。
「……っ」
 唐突に視界に飛び込んできた眩しい光に、薄暗さに慣れていた綱吉は瞳の奥が焼かれるのではと反射的に目を閉ざした。首を窄めて一層身体を丸くさせ、クッションをきつく抱く。吐き出そうとしていた息を喉に詰まらせて一瞬呼吸が止まり、塞がった気道を開くのに若干の時間が必要だった。
 驚いた衝撃で、踵を載せているだけだった右足がソファからずり落ちる。構える余裕もなかった足は床にぶつかった反動で変な方向へ曲がり、足首に痛みを覚えた綱吉は小さく呻いた。
 噛み締めた奥歯から息が零れていく。痛みに強張った頬と首筋を撫でた涼やかな風に片目を開ければ、最初はぼやけていた視界も徐々に明確さを取り戻し光にも慣れていった。瞬きをして、今度は両目の瞼を持ち上げる。白いカーテンが軽い仕草で泳いでいる間に、同じく毛先を風に遊ばせている黒髪の青年の姿があった。
 彼は両手を窓枠に置き、上半身を乗り出す格好で外を向いていた。風は彼の脇をすり抜けるように室内へ流れ込み、それまで重苦しいばかりだった空気を押し流してまた窓から出て行く。鼻腔を擽る微かな匂いは、校内に咲く花のどれかだろう。色々と入り混じっていてどれがなにやら判別が付かないが、良い匂いであるのには変わりない。
 それまで苦しいばかりだった気持ちが軽くなる気がして、綱吉はソファに残っていたもう片足も床へと下ろした。
 胸に押し当てていたクッションも膝に戻し、座ったまま深呼吸を繰り返す。息を吸って吐く毎に胸の中につかえていたものが消えてなくなっていくようで、大きく伸びをしたい気分に駆られた綱吉はそのまま目を閉じ、両腕を頭上へ持ち上げた。
 背筋をソファの背凭れに沿って伸ばす。深く息を吸って止め、長い時間をかけて吐き出す。
「――――」
 雲雀が何かを呟いたようで、綱吉は顔を前向けて姿勢を戻した。内容までは聞き取れなかったが、様子を窺うと彼は右手を窓の外に向けて差し出していた。
 なんだろう、と綱吉が首を傾がせる。何処かから羽音が聞こえてきて、瞬きをしている間に淡いクリーム色の羽衣を纏った小鳥が現れた。雲雀にすっかり慣れている様子で、恐れる素振りもなく小さな脚を器用に使って雲雀の細くしなやかな指に停まる。
 ピィ、と平らな嘴を開いて甘える声を出したその鳥には、綱吉も見覚えがあった。
 忘れろと言われても忘れられない一日、その中で対決した卑怯な男が連れていた鳥だ。
 背筋が震える、まさかあの男も傍にいやしないかと恐怖に駆られて綱吉は視線を慌しく左右へ振り回した。が、室内に自分たち以外の人気は感じられず、また雲雀があの愚劣な男が近くにいるのを許すはずがないとも考え直す。けれど一瞬で竦みあがってしまった心臓は落ち着きを完全に失い、バクバクと鼓膜を強く内側から打ちつけて眩暈がしそうだった。
 下ろしたばかりの両足をまた持ち上げ、膝が胸につきそうなぐらいに引き寄せる。両手を重ねて口元を覆い隠し、あげそうになる悲鳴を懸命に呑み込んで綱吉は震える奥歯の不協和音を耐えた。脳裏を駆け抜けていく嫌な記憶は、助けに走ってくれた仲間たちによって白く塗り替えられていく。それでも恐怖は完全には払拭されず、浅く乱れた呼吸を必死に繰り返しながら綱吉は硬く目を閉ざした。
 窓を閉める音がする、肌に感じた気流の流れが絶え、外から紛れ込んでいた雑音も遠ざかっていった。
 薄らと目尻に涙が浮かんでいて、綱吉はどうにか体裁だけ整えて膝を下ろした。まだ心臓は五月蝿いけれど、表面上は動揺を悟られぬよう取り繕う。
 雲雀は指に小鳥を乗せたまま、ゆっくりと綱吉へと向き直った。
 肘を地面に水平になるよう曲げ、羽を休める鳥にささやかな気配りを見せる男を恨めしげに見上げた綱吉は、雲雀の腕を飛び跳ねて彼の肩まで登ろうとしている鳥の無邪気さに漸く強ばっていた頬を緩めた。
 動物に罪は、ない。あのバーズが解放されたとも考えにくく、何かあっても雲雀が一緒だから大丈夫だと強引に自分を納得させた。ぴぃ、と再びひと鳴きした鳥に淡く微笑んでいる雲雀は、綱吉に向けるそれよりも少しだけ表情が軟らかく感じられた。
「……」
 そんな顔、自分には滅多にしてくれないのに。
 名字に鳥の名前を持つ彼だから、仲間意識でも働いているのだろうか。だとしたら彼の背中には大きな翼があって、気まぐれに何処かへ飛んでいってしまう。それは嫌だ、絶対に。
 飛んでいくのなら、自分も連れて行って。言い出せない言葉を飲み込み、綱吉は雲雀の横顔をジッと見つめた。
 流石に穴が空きそうなくらいに見つめていたら、向こうだって気付く。机に戻ろうとした雲雀が顔を上げ、綱吉と視線が空中でぶつかった。崩した膝の上で頬杖ついていた綱吉は、反射的に顔を逸らして居住まいを正していた。だから不審気味に顔を顰めた雲雀の表情は見えず、代わりに綱吉は鳥の羽ばたきを聞いた。
 ピイィ、という軽い高音が頭上に響き、なんだろうと首と視線を真上に持ち上げたところで頭に微かな重みを感じた。
「え?」
「……」
 なんだろう、と綱吉が見えない頭上に意識を向けるのと、雲雀が引いた椅子に腰をぶつけてそのまま背中から机に寄りかかるのはほぼ同時だった。
 彼は空っぽになった腕をそのまま顔の下半分に押し当て、肩を丸めて小刻みに震わせていた。
「え? え?」
 雲雀が笑っている。声を懸命に抑えて、けれどこみ上げる笑いを堪えきれないでいる彼は、非常に珍しい。けれどいったい、彼は何をそんなに笑っているのだろう。
 綱吉は訳が分からないまま、瞳を限界まで上向けた。首を仰け反らせるが、頭の上に感じる重みは一向に減らない。何かが乗っている、そんな感じ。
 そう、何かが。
 乗っている。
 乗って…………
「え」
「みどりたなびくなみもりの~」
「え?」
「だいなくしょうなくなみがいい~」
「え……」
 頭上で突然始まった並盛中校歌。目の前では雲雀が益々身体を丸め、顔を隠して笑いを堪えている。綱吉は大体の状況を把握したものの、だから此処でどうして校歌なのかと困惑が隠せない。
 誰が教えたのかは歴然としている、けれどだからといって綱吉の頭に停まっていきなり歌い出すのはどういう了見か。
「こらっ」
 やめろ、と両腕を持ち上げて頭の上で両手の平をたたき合わせる。けれど一歩遅かったようで、素早く翼を広げた鳥は綱吉の手から難なく逃げ延びた。そのままぱたぱたと羽ばたいた後、綱吉が諦めて腕を下ろしたところで、また彼の髪の毛に身体を埋もれさせた。
 だからそれをやめて欲しいのに。もう一度、今度はさっきよりもずっと慎重に両手を繰り出すものも、これもまた簡単に躱されてしまった。綱吉の愚鈍さを嘲笑っているのか、鳥はピィピィと五月蠅いくらいに囀り、羽を広げて空気を叩いている。
「……もう」
「君の頭を巣だと思ってるんじゃない?」
 ぶすっとした顔で唇を尖らせれば、まだ目元にうっすら笑みの名残がある雲雀が綱吉を指さして言った。
 言われてみれば確かに、ぼさぼさに跳ね上がった綱吉の髪の毛は、羽を休めるのに丁度良い巣になりそうな雰囲気がある。けれど、だからと言って人の頭でくつろがれるのは正直嫌だ。
 雲雀の肩から居場所を変えた鳥は、居心地良さそうに羽を休めている。漸く表情から笑みを消して雲雀もまた、椅子に戻って中断させていた職務に戻っていき、多少心の強ばりが解けたものの綱吉は頭上の鳥が気になって仕方がない。
 怖がらせないように指を伸ばし、感覚を頼りに鳥を擽る。けれど触れる直前に逃げられてしまい、細い足で飛び上がられて髪の毛が何本か絡んだ。
「いたっ」
 鳥に悪意があったわけではないだろうが、これは酷い。綱吉がピクリと全身を痙攣させたのが伝わったのか、鳥も動きを止めて半端に持ち上がった綱吉の手を心配そうに見下ろしている。
 それは雲雀も同じで、向き直った書類、不備を見つけて渋面を作っていた彼は更に己の不機嫌に拍車が掛かりそうな綱吉の悲鳴に口元を歪めた。
 綱吉は両目を閉じ、数回深く息を吸って、吐き出した。痛みを堪えるのではなく受け流し、大丈夫痛くない、と自己暗示をかけた。そうすれば涙が出そうだった衝撃は緩やかな波となって消えていき、不自然な体勢で止まっていた腕は勝手に膝に落ちていった。
 鳥の重みを前頭部付近に感じた。綱吉は背中を深くソファに預け、上を向く。前方へ場所を移した鳥が下を覗き込んでいて、うす茶色の髪越しに目があった気がした。指を伸ばす、今度は逃げずに触れさせてくれた。
「へへ」
 猫をあやす要領で首の裏を軽く撫でる。柔らかい感触が皮膚に伝わって、こんなに小さな存在でもちゃんと生きているのだとその温もりに嬉しくなった。
 だからもっと間近で見つめたくて、綱吉は今度こそと両手を使って鳥を捕まえようとした。
 それなのに。
「あっ、待てっ!」
 ぱさりと綱吉の両手は自分の頭へと落ち、まるで往年のギャグを実践しているようなポーズを作ってしまった。嘗てはバーズと一緒で、今は自由に空を駆る翼を取り戻した小鳥は、三度綱吉の手を逃れて応接室の天井付近まで飛び上がってしまった。
 抜け落ちた小さな羽毛がひらひらと空気抵抗を受けながら落ちてくる。頭を振れば他にも何本か、髪に絡んで抜けてしまったとおぼしき羽根が溢れた。
 待て、と綱吉が叫ぶ。視線はずっと斜め上を向き、外から差し込む光に完全に負けてしまっている照明器具付近へと。大空に比べてしまえば狭すぎる応接室の天井をあてどなく飛び回る鳥は、見上げている綱吉からすれば壁にでもぶつかりはしないかとドキドキだ。
 けれど彼のそんな心配を知ってか知らずか、機嫌良さそうに羽根を広げる鳥はある瞬間で急に失速し、高度を下げた。
「うあっ」
 綱吉もまた悲鳴をあげる。右手で開ききった口元を覆い、目を剥いて靴下のまま床を蹴って走り出した。
 騒音が室内に響き渡る、仕事への集中力を削がれた雲雀が、呆れ気味に頬杖をついて綱吉の行方を見送った。
 両手を広げた綱吉は、鳥が落下する地点を大雑把に頭の中で計算して、大凡の見当をつけた地点に駆け込んだ。それはちょうど座っている雲雀の真後ろ付近で、ひょっとすればカーテンを引いていない窓から外に出ようとしているのかと思われた。
 が、その窓は先程雲雀が閉めてしまった。透明で向こう側が丸見えだけれど、其処にはガラス板がはめ込まれているのだ。
 鳥程度に言ったところで、理解して貰えるとは思わない。だがこのままでは危険なのも確かだ。だから綱吉は動いた、それこそ自分が窓ガラスに身体をぶつけてでも鳥の進行方向を塞いで壁になろうとしたくらい。
 ただ、矢張り元々の飼い主が姑息だったから、だろうか。
 綱吉が前方に回り込んだのを見た鳥は、急降下中にいきなり両方の翼を広げて空気抵抗を大きくさせた。ふわりと小さな身体は簡単に浮き上がり、バランスを取り戻した鳥は悠然と雲雀の頭上を目指していった。
 後に残されたのは、窓で左肩を痛打した綱吉の身体ひとつ。
 痛みを堪えていると斜め前方から溜息が聞こえてきて、目を向ければ半身を翻している雲雀の顔が思っていた以上に近い位置にあった。銀色のシャープペンシルを上下に揺らし、少しだけ険のある表情で綱吉を見つめている。
 睨んでいる、という方が正解か。
「あ、えと」
「君は、僕の仕事の邪魔をしたいの?」
 机の上には無数の紙の山。最初応接室を訪れた時は綺麗な円柱を形成していたそれが、今は綱吉が走り回った時の勢いを浴びて上の方がかなり乱れてしまっている。何枚かは本当に飛んでいってしまったかもしれない。
 左腕を椅子の背もたれに、右手を机の縁に置いた彼の言葉に、綱吉は冷水を頭から浴びせられた気分になった。怒っている、確実に。当たり前だろう、元々大人しくしているという約束でこの部屋に置いて貰えていたようなものなのだから。
 彼の邪魔をしようだなんて毛頭思っていない、けれどこの状況では言い訳すら出来ない。
 綱吉はまだジンジンと痛みを放つ左腕を庇い、その場で俯いた。先端が黒ずんで汚れている靴下がふたつ、床に並んでいる。居心地悪く右の親指で左の親指を弄り、肩ではなく肘を幾度かに分けて撫でた。
 溜息がまた聞こえ、そこに鳥の鳴き声が混じった。
 もとはといえば、あのバーズの鳥の所為だ。小動物に責任を押しつけるのはみっともないと自分でも思うが、あんな風に動かれては誰だって何かあったのではないかと心配するし、一直線に閉じられた窓に向かわれては正面衝突も危惧する。雲雀だって本当はそんな事くらい分かっていて、ただ嫌みのひとつくらいは言わないと気が済まないだけだ。
 彼は先端で机を叩いていたシャープペンシルを置き、右手を机の下にある引き出しに添えた。
「綱吉」
「はい」
 今日初めて名前を呼んで貰った、それなのにあまり嬉しくないのは何故だろう。
 両手を腰の前に持って行ってモジモジと指を絡ませる。首を窄め、視線は上目遣いに座っている雲雀を見つめると、彼は数秒前よりは幾分瞳の色を薄くさせて口元に薄い笑みを浮かべていた。
「もうじき終わるから」
「……」
「大人しく待てる?」
「はい」
「そう」
 なんだか幼稚園児に戻って、保父さんに言いくるめられている気分になった。綱吉が比較的大きな声ではっきりと返事しながら頷くのを見て、雲雀は満足そうに口元を歪めると左肘を引いて椅子にしっかりと座り直した。
 胸の前を通過して右側から覗いた彼の左手が、おいで、と綱吉を手招きしている。なんだろう、と背筋を伸ばした彼は半歩しか離れていない距離を一瞬で詰め、引き出しを閉めた雲雀のその右側に立った。
 なんですか、と視線で問いかけると、彼は含み笑いを浮かべながら握った右手を膝に置いた。
「なら、ご褒美。目を閉じて」
「?」
「目、閉じて?」
 いきなり、何だろう。机の上で悪戯をしている鳥に気を取られていた綱吉は、重ねられた雲雀の声にハッとなって慌てて両目を閉じた。頭の中では彼に言われた台詞がぐるぐると目まぐるしく駆け回り、いろんな想像が消えては現れ、頭の血管が一本くらい破裂しそうだった。
 ご褒美、と言った。
 側に来いと命ぜられて近づいて、目を閉じろと言われて瞼を閉じた。五感のうちひとつが闇に閉じこめられ、否応無しにそれ以外の感覚が鋭敏になる。書類と印刷用インクの匂い、雲雀が動く衣擦れの音。口の中に沸いて出た唾を飲み込むと生ぬるく、喉の奥が緊張して震えている。両脇にぴったりと添えた腕の先が変に強ばって、指が反り返りそうだ。
 雲雀は腰を浮かせたのか、椅子の軋む音がした。鳥が机で跳ねる微かな物音、目を開けて良いとは言われていなくて綱吉は迂闊に命令を破ってしまわぬよう拳を握ると同時に瞼にもぐっと力を込めた。奥歯を噛み締め、擦れ合った臼歯の嫌な音をやり過ごす。
 鼻先に吐息を感じる。
「口、開けて」
 間近で響いた低い声に心臓が勢い良く跳ねた。
 下手をすればそのまま悲鳴をあげて逃げ出してしまいそうで、綱吉は爪が皮膚に食い込むくらい拳を硬くして堪えた。
 どうしようもなく緊張している。理由は、分かっている。今までこんな風に焦らされた事がないからだ。いつだって彼は突然だったし、心構えを作る時間すら与えてくれなかったから。
「綱吉?」
 若干甘い、彼の声。
「……ぅ」
 きっと今このひとは、緊張でがちがちになっている自分を見て楽しそうに目を細めているに違いない。悪戯を思いついた時の彼の顔はとにかく無邪気で、だからこそ始末が悪い。目を開けて近くから見つめ返したいのに許されなくて、焦れったくて、どきどきする。
 心臓が薄く開いた唇の隙間からあふれ出てしまいそうだ。
 ふっ、と雲雀が笑う気配がした。何かが下唇に当たる、硬い。
「?」
 抵抗しようかどうか迷っている間に、強引に口腔内にねじ込まれたそれは綱吉の前歯に表面を削られながら、乾き気味の舌の上に転がり落ちた。小さな……恐らく一センチ四方程度の大きさの、厚みもある物体。
 しかも。
 甘い。
「……ヒバリひゃん?」
「ご褒美」
「ん」
 目を開けて良いよと耳元で囁かれ背筋が粟立った。綱吉は口をきつく閉ざすと口の中に落ちたものを舌に絡め、右奥歯に押し当てる。唾液がまとわりついたそれは熱を浴び、表層をゆっくりと溶かしつつあった。最初硬いと思った感触も、次第に柔らかさを増して歯に絡みついてくる。試しに奥歯で押し潰すと、呆気なくもとの形を崩し横長に面積を広げていった。
 この噛み応えには覚えがある。味も……予想が正しければ。
「イチゴの……キャラメル」
 鼻の奥に微かだけれどイチゴの香料を感じる。舌の上に広がった味もイチゴそのもので、けれど歯に受ける感触はキャラメルそれ。
 季節的にイチゴを使った菓子が店頭に沢山並べられる時期でもある。こういうものもあるのか、と真っ平らに引き延ばされたそれを舌でこね回して丸くした綱吉は、口の中で左右に転がしながらイチゴ味の唾液を飲み込んだ。
 けれど、何故これがご褒美なのだろう。
 予想していたものとは大分違った内容に綱吉は首を傾げ、背中を向けている雲雀を見つめる。が、彼はシャープペンシルこそ握っているものの手元の資料はまるで手つかずで、視線も綱吉に合わないようそっぽを向いていた。
 首を捻る。どうしてだか雲雀の首筋が、赤い。
 ぴぃ、と鳥が鳴いた。机の上を好き放題移動していたそれは、資料の山に半分埋もれている卓上カレンダーの前に止まっていた。
 三月。
 十四日に。
 赤い丸印が。
「あ」
 ひとつの事項が頭の中で線を結び、綱吉は思わず声をあげていた。見る間に彼もまた顔を赤くし、まだ塊も大きかったキャラメルをつい飲み込んでしまった。
 ごくりと喉が鳴る、その音がうるさい。
 ついでに耳の奧に鳴り響く心臓の音も、嫌になるくらいに。
 綱吉が気付いた事に気付いたのか、雲雀は益々耳まで赤色に染めて椅子を回転させ、綱吉に本格的に背中を向けた。お陰でずれた彼の腕があった位置、最初は隠されていたものが丸見えになる。鮮やかなピンク色に包まれた皺だらけの包装紙。細長い紙の箱がその横に、先端は開かれている。
 女の子向けの可愛らしいキャラクターが踊っているのが見えて、綱吉はつい笑ってしまった。似合わない。あまりにも雲雀のイメージとは不釣り合い過ぎて、おかしい。
 彼はいったい、どんな顔をしてこれを買ったのだろう。パッケージには黄色いシールが購入済みの印として貼られている、これひとつだけをレジに持って行く雲雀の姿が想像できない。
「……筆記用具を買いに行く、ついでだったんだよ」
 ぶっきらぼうに言い放つ彼の言葉が嘘なのはバレバレで、綱吉は腰を曲げて腹を抱えて笑った。
 そうすれば雲雀は、もっと顔を赤くして拗ねたのか怒ったのか、荒々しく靴の裏で床を蹴り飛ばした。音に驚いた鳥が机から離れ、トロフィーが並ぶ棚の上へと避難していった。
 照れているからか、上擦った感じがする雲雀の声が新鮮だった。怒鳴っているのに迫力が全然宿っていなくて、彼でもこういう声を出せるのかと知れたのが嬉しくなる。
 舌の上がまだ甘い。けれど、物足りない。
「ヒバリさん」
 イチゴの匂いがする声を響かせ、綱吉は両手を広げた。背を向けている彼に、椅子ごと抱きつく。
 ソファの上でクッションを抱えていた時のように、思い切り強く。けれど彼はどれだけ力を込めても決して真ん中で折れたりはしない、いつだって綱吉をしっかりと抱きしめ返してくれる。
 だから好きだ。
 雲雀は綱吉の体温に一瞬驚いたようで、赤みの抜けない頬を後方へ流しかけて寸前でやめてしまった。ちぇ、と彼の肩に寄りかかりながら綱吉は正面で見たかった、と愚痴を零す。
 けれど、良い。これからの人生は長いのだ、彼と一緒に居る限り、チャンスは何度だって巡ってくるに決まっている。
 綱吉は雲雀の肩に両腕を回し、胸の前で交差させて手首同士を結ぶ。彼の耳朶に頬を寄せて、
「ね、ヒバリさん。もうひとつ」
 頂戴、と呟けば。
「仕方ない子だね、君は」
 左腕が下から延びてきて、綱吉は頭を撫でられた。さっき鳥の脚に絡め取られた髪が生えていた部分を特に重点的に撫でられ、くすぐったくて目を閉じていると鼻先に微かなイチゴの匂いを感じ取る。薄目を開けて見つめれば、片手で器用に包装紙を剥いだ雲雀が、淡いピンク色をした固形物を指で摘んで持っていた。
 あーん、と大きく口を広げて彼の指を誘い込む。比較的奥側まで差し込まれた人差し指を、抜き去られる前に唇を閉じて封じ込めて舌で爪の生え際を舐めてやった。
 引き抜かれた彼の人差し指には綱吉の唾液が絡んでいて、斜めから浴びる太陽光を受けてきらきらと輝いていた。困った風情の雲雀がその先にはいて、甘いキャラメルを舌に転がした綱吉はさながら猫の如くゴロゴロと喉を鳴らして彼に擦り寄る。
 口の中がどうしようもなく甘くて、変になってしまいそうだ。
「つなよし」
 イチゴにも負けないくらい、甘い声がする。雲雀もまた綱吉の喉を撫でながら、椅子を引いて机の正面に向き直った。上半身が引きずられて動き、綱吉は腰を引いて結んだ腕を解き放つ。
 キィ、と椅子が軋む。雲雀の右腕が傍らに立っている綱吉の腰を撫でた。ジャケットの内側に差し込まれた彼の腕がそのまま背面へと回り込み、綱吉を問答無用で引き寄せる。
 踵が浮いたけれど、綱吉は逃げなかった。
「うぁ」
「まったく、君は」
 膝の頭が雲雀の腿にぶつかり、意図せずに綱吉は両足を広げてそれを避けた。すとん、と腰が落とされた時にはもう正面に雲雀がいて、背中には机の縁が迫っており、逃げ道は完全に塞がれていた。
 雲雀に鼻を舐められる。鋭い刃を思わせる彼の瞳も、この時ばかりは熱情を孕んで妖しく輝いている。見つめられ続けると心の臓まで溶かされてしまいそうな雰囲気に、綱吉は大きく喉を上下させて甘い唾を飲み込んだ。
 背中に添えられたままの手が綱吉のスラックスをなぞっている。触れられたところから、また重なり合った場所から熱が生まれ、綱吉は喉を引きつらせて声を殺した。反り返った喉仏に浅く噛み付かれ、背筋が勝手に震える。
 落ちないようにと引き込まれ、感じた高ぶりに意識が飛びそうだった。雲雀もまた短く息を止め、うっすらと汗を浮かべた額を綱吉の眼前に晒した。
 吸い込まれそうな瞳に、綱吉が映し出されている。今彼には自分しか見えていないのが何よりの喜びで、興奮が良くも悪くも綱吉の中を埋め尽くしていった。
「誘い方ばかり、巧くなる」
「誰の所為ですか」
 きちんと着込んでいたシャツが引き抜かれる。紛れ込んだ空気の冷たさに鳥肌が立ち、咬まれた場所を舌で丁寧に舐められてまた身体が震えた。
 首の裏を撫でられ、俯くよう促される。奥歯に引っかかったままのキャラメルが甘くて、何度も唾を嚥下しながら綱吉は潤んだ目を彼に向けた。下から伸び上がるように口づけされて、彼の長い睫毛を食い入るように見つめてしまった。
 潜り込んだ舌が管となって綱吉の唾液を吸い取っていく。自然と深まる繋がりに呼吸が出来なくて苦しく、綱吉は雲雀の背中にしがみついてずり落ちそうな身体を懸命に支えた。心臓が落ち着かない、拍動は速さを増す一方でちっとも主人の言うことを聞いてくれなかった。
 キャラメルの混ざった唾液が粘性の糸を作り、途切れる。唇の表面を濡らしている分まで吸い取られ、残った塊を奥歯の内側にぶつけた綱吉は自然と浮き出た涙をそのままに赤い顔を俯かせた。頭から雲雀の胸にぶつかっていく。
「……甘い」
 心底げんなりしている彼の声に、いたたまれない気持ちのまま綱吉は丸くなったキャラメルを飲み込んだ。

2007/3/11 脱稿