もろともに 同じ梢を みどりなる

妙な夢を見た。
いや、夢の内容はほぼ覚えていない。だというのに夢を見た、という認識だけが、目覚めた瞬間に強く心に刻まれていた。
訳が分からないと、自分でも思う。しかしほかに説明のしようがなくて、藤丸立香は寝癖が残る頭を右手でボリボリ掻き回した。
「……ん?」
その指先に、違和感があった。
違う。指ではない。指が触れた先に、奇妙な障害物があるのだ。
「なんだ、これ」
場所でいえば頭頂部よりやや右寄り、側頭部へと至る中間付近。伸び気味の黒髪の根元に、若干ふかふかとした柔らかな感触があった。
間違ってもたんこぶの類ではない。内出血から皮膚が隆起し、内側に水が溜まっているといった感触とも、明らかに異なっていた。
そもそも、頭部に怪我を負った記憶はない。年越しで仲間たちと大騒ぎし、夜更かしをしたけれど、部屋に帰る道中で転んだ覚えは一切なかった。
試しに頭に生じた異物を撫でてみれば、爪先はすーっと上へ向かい、十数センチを超えた辺りで宙へ投げ出された。
つまりは、それだけの長さがあるものが、藤丸立香の頭に生えていた。
「ん? んんんん?」
ほんのり暖かくて、柔らかかくて、ふかふかして、細長い。軽く引っ張っても取れず、代わりに髪を捕まれた時に似た痛みが周辺から沸き起こった。
奇っ怪な現象に見舞われて、僅かに残っていた眠気が綺麗さっぱり吹き飛んだ。
目を丸くし、加えて白黒させて、人類最後のマスターたる青年は被っていた布団を跳ね飛ばした。
勢いよく起き上がり、今度は両手を使って頭部をホールドする。
襟足近くから始め、ぼさぼさの髪の毛を押しのけながら徐々に手のひらを上へと滑らせれば――
「なに、これ」
ソレは右側だけではなく、左側にも存在していた。
ひやりとしたものを背中に感じつつ、咥内にあった唾液を一気に飲み干した。恐怖と、戸惑いと、意味が分からない感情に押し潰されそうになりながら、彼は怖々ベッドを降り、靴を履かずに床へ降り立った。
たった数歩の距離が、とてつもなく遠く感じる。
寝起きの身体に鞭打って進み、ようやく辿り着いたのは鏡の前。普段はレイシフト前に気合いを入れるべく覗き込む場所でしばし息を呑み、彼は。
「嘘だろ~~~……」
新年早々真っ白いウサギ耳を頭部に生やした己を確かめ、へなへなと床に崩れ落ちた。

「で、僕のところに来た、と」
「だって、こんな格好のままじゃ、なんにもできないだろ。せっかく新所長や、みんなが、新年のお祝いでご馳走作ってくれてるのに、食べにいけないじゃん!」
至極つまらなさそうな顔をする男を前にして、目深に被っていたフードを外し、立香は口を尖らせた。
目が覚めたら、ウサギの耳が生えていた。
焼却された人理を取り戻し、今は白紙化された地球を元に戻すために旅をする中で、少々のトラブルや、不可思議な出来事には慣れたつもりだった。
それでも動揺が隠せなかった。
眠って、目覚めたら、身体に起きていた異変。最初は信じたくなくて現実を拒絶したが、数分後には時間の無駄と諦め、管制室にいる技術顧問や、後輩に助けを求めた。
まずは現状の確認を。万が一この身の一部が変質しているのだとしたら、大変だ。
しかしモニターに現れた立香の姿を見た瞬間、ダ・ヴィンチは堪えもせず吹き出した。
マシュ・キリエライトはといえばしばらく無言で固まったかと思えば、突如モニターの前から姿を消し、ものの数秒後に部屋へ突撃してきた――端末に内蔵されたカメラを起動させた状態で。
そのまま一言も発することなく、フラッシュを浴びせられた。動画も交えて連続でシャッターを切る後輩は、少々、否、かなり怖かった。
モニターの向こうからは笑いを堪えながらもダ・ヴィンチが素早く解析を済ませ、身体にこれといった異常は発生していないと教えてくれた。
原因は不明。夜中に何かがあったのは確実ながら、何が要因となり、解決方法も現時点では分からない。
はっきりしているのは、この新しく生えた耳には生物的な機能がなにも備わっていないこと。ちょっと大きめの腫れ物といった程度であり、害になるものではない、ということ。
とはいえ、首を振れば一緒にウサギ耳も揺れるので、微妙にバランスが取りにくい。服を着るのにも邪魔で、なにより厄介なのが、方々から向けられる好奇の目だ。
普段は理知的なデミ・サーヴァントでさえ、興奮を隠さず、カメラから手を離そうとしなかった。
もしほかのサーヴァントたちに見られたら、どうなるのか。
コヤンスカヤに見付かりでもしたら、『なんなら尻尾もサービスしますよ』と笑顔で言われそうだ。キツネ耳の自称女子高生には、なぜウサギなのかと理不尽に当たり散らされるだろう。
それ以外の英霊たちにも笑われて、遊ばれて、良いおもちゃにされるのが目に見えている。
だからマシュのカメラを振り切り、赤ずきんよろしくフードをすっぽり被って廊下を駆け、医務室へと逃げ込んだのだ。
この男なら笑い飛ばしはしないと信じた。
もし笑うとしても、マスターの情けない姿を見て、ではない。人間の頭に異なる動物の耳が生える異常事態に対しての歓喜だと、そう信じられた。
だというのに。
「つまらん」
心底面倒くさそうに一蹴されて、立香は唖然となった。
おそらくダ・ヴィンチから回って来たであろうカルテを一瞥し、アスクレピオスは肩を竦めた。さらには忌々しげに舌打ちして、長い袖越しに持ったファイルで立香の頭を軽く小突いた。
「つまらないって、ちょっと。オレにとっては一大事なんですが」
「放っておけばそのうち消える。獣臭さを漂わせて、僕に近づくんじゃない」
「ひどい!」
ファイルの角が当たりそうになり、反射的に押し返した立香は、本気で嫌そうな顔をする英霊に声を荒らげた。
マスターの人権に関わる事態なのに、やけに扱いが悪い。それに嬉しくはないが、せっかく面白おかしい症例を持ち込んでやったというのに、彼の反応が芳しくないのも奇妙な話だった。
もっと食いついても良さそうなものなのに。
アスクレピオスの態度にも違和感を覚え、眉を顰める。
ウサギの耳ごと身体を小刻みに揺らす彼に睨まれて、医神と呼ばれる半神半人の英霊は再び盛大に舌打ちした。
「むしろどうして気付かない」
「……なにが?」
「貴様に喜んでそういう理のない悪戯を仕掛けて、実際に実行できるやつなど、ここでは限られているだろう」
「んー?」
非常に言いにくそうに、遠回しが過ぎる指摘を受けて、立香は首を傾がせた。
動きに合わせ、左側のウサギ耳が中程で折れ曲がった。
重力に従って先端が下を向くのは、視覚情報と、頭皮が引っ張られる触覚から認識できた。裏を返せばこの新しく生えた耳自体からは、なんら情報が得られなかった。
神経は繋がっていない。血管も走っていない。出来の良い人工物を、カチューシャを経ないで直接、不自然なく頭に貼り付けているようなもの。
そんな荒唐無稽で意味がない真似をして喜び、嬉しがる存在は、困ったことに候補が多すぎて絞れない。しかし一点、アスクレピオスがこうも嫌悪感を露わにする、という情報が追加されることで、対象は一気に狭まった。
「……まさか。あ、いや。ちょっと待った」
ぽん、と音を立てて脳裏に浮かび上がったのは、まん丸い体躯にデフォルメされた一匹の羊。とある英霊に付随してカルデアへとやって来た、イレギュラーとしか言い表しようがない存在だった。
ぞわりと冷たいものを背中に感じ、立香は頭を抱え込んだ。
そういえば、夢に見たような気がする。ふわふわの毛玉に包まれる中で、新年を言祝ぐと同時に、八つ当たりめいた台詞をぶつけられるのを。
曰く、どうして毎年未年ではないのか、なんだとか。
でもかわいいから、これで許してあげる、だとか、なんだとか。
具体的に覚えているわけではない。はっきり言って詳細は未だ不明だ。けれどあの太陽神ならば、たとえ端末であったとしても、人の夢に介入するくらい造作もないだろう。
そしてマスターの頭に今年の干支である獣の耳を生やすことも、やってやれないはずがない。
そういう妙な信頼感だけは、ある。決して有り難くないが。
「ルーンの仕業、とかではなく?」
念のために確認を求めた立香に、アスクレピオスは静かに首を振った。
そもそも彼が、アポロンの気配を見逃すわけがない。この男が言うのならば、誰の仕業でこうなったかは、疑う余地がなかった。
「なんとか、ならない?」
「言っただろう、所詮は仮初めのものだ。一晩も過ぎれば勝手に消えるはずだ」
「だから、できるなら今すぐどうにかして欲しいんだけど」
そのアポロン案件には関わりたくない、と言葉でも、態度でも示す医神に食い下がり、立香は縋る手で彼の袖を掴んだ。
長く垂れ下がった布を指先に集め、軽く引っ張れば、アスクレピオスは眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げた。
「神経は繋がっていないんだ。引っ張ればそのうち千切れるぞ」
「ちょっと」
「髪の毛を抜くようなものだ。それくらい、自分でやれ」
「いやいやいや」
あまりにも投げやりで、乱暴な提案は、とても呑めるものではなかった。
物騒で、絶対に痛いと分かる対処法にぶんぶん首を振って、立香は逃げたがるアスクレピオスに迫った。
片手で掴んでいた袖に左手も添えて、悲痛な顔でほかの案を求めた。
こうしている間にも、食堂では新年の祝賀会が開催されている。料理自慢のサーヴァントたちが腕によりをかけ、新年の時だけに供される特別なメニューを披露してくれているはずだ。
早くしないと、食べ損ねる。
もちろん彼らのことだから、マスターの分は確保してくれているだろう。しかし全てが終わってからひとり寂しく部屋で食べるのと、皆に囲まれながらわいわい食べるのとでは、美味しさが違うのだ。
必死の形相で食らいつく立香に、アスクレピオスは渋面を崩さない。ならばとマシュが大絶賛したふさふさのウサギ耳部分で彼の頬を捏ねれば、逆効果だったか、力任せに払い除けられた。
「羊臭を僕に向けるな」
「ウサギだってば」
「分かった。よし、マスター、そこに座れ。今すぐ切除してやる」
腹立たしげに吐き捨てられて、負けじと言い返したら、何が分かったというのだろう、急に居丈高に命じられた。
訝しんで視線を向ければ、アスクレピオスの手には鋭く光る銀色のメスが握られていた。
いつ取り出したのかは分からない。ただキャスターには、道具作成のスキルがある。ほんの瞬き一回分の時間でこれを作り出すのも、さしたる労力は必要なかろう。
いかにも切れ味が良さそうな刃物を見せられて、立香は反射的に頭を抱きかかえた。
確かに神経は繋がっていない。表面が癒着しているだけなので、ウサギ耳部分をカットしても痛みは生じないはずだ。
事実、こうやって上から押し潰しても、なにかが被さっている程度の感触しかない。指先は柔らかな毛足に埋もれて心地良いが、獣の耳そのものはなんら衝撃も、悲嘆さも、訴えかけてこなかった。
「やだ、待って。痛いって」
それでも心理的に、嫌だ。
まがい物とはいえ今や身体の一部と化したものが、無遠慮に、冷徹に、切り落とされるというのは、精神面でよろしくなかった。
理屈は分かる。
それが最も手っ取り早い手段なのも、納得できる。
ただ受け入れられない。切っ先を向けられる恐怖と、なにもそこまで、という心理が混ざり合って、立香は奥歯を噛み鳴らした。
音を立てて鼻を啜り、アスクレピオスの前から一歩半、後退する。
両手を頭上にやったまま逃げ腰になったマスターを一瞥して、バーサーカーでも通りそうな医療狂はため息を吐いた。
「どうにかしろ、と言ったのはマスター、お前だろう」
先ほどからコロコロ主張が変わっているのを指摘されて、ぐうの音も出ない。
依然頭を抱きかかえながら唸った立香をまっすぐ見つめ、アスクレピオスはスッと右腕を揺らした。
途端に凶悪な光を放っていた銀色のメスが、空中に掻き消えた。煙の一筋すら残さず、文字通り消滅した。
彼のことだから油断ならないものの、直近の脅威は去った。
ほっと胸をなで下ろした立香を前に、アスクレピオスは渋い顔のまま目を伏した。
額の手前で交差する銀糸が穏やかに揺れ動き、長い睫が上下に踊る。
外科手術を拒んだ手前、すぐに次の案を求めるのも憚られ、立香は扱いに困ったウサギ耳を軽く捏ねた。
揉んで、撫でて、抓んで伸ばし、ぱっと離して垂れ下がったところでまたひと撫で。
自分の頭に生えてさえいなければとても心地よい感触を堪能していたら、前方から嫌みが飛んできた。
「楽しそうだな」
「え? うーん、まあ……自分じゃなかったらね」
「新年の余興だと言って、そのまま出て行ったところで、誰も気にしないぞ」
「なんか、そんな気がしてきた。マシュもかわいいって言ってたし。もう、いいかなあ」
最初は混乱し、ふざけるな、という気持ちが強かったものの、時間が経つにつれて愛着が湧いてきた。
どうせ正月で、無礼講だ。一日くらいはこのままでも良いかと、太陽神のお茶目な悪戯を受け入れるゆとりが生まれ始めていた。
身体にはなんら害はない。アスクレピオスの見立てを信じるなら、一晩過ぎれば自然と消滅するという。放っておくのが一番なのだと言われたら、もうそれを許容するしかないではないか。
子供姿のサーヴァントたちにはきっと気に入られるだろうし、妙な仮装を強いられるくらいなら、この程度で済む方が安心安全だ。
長い耳の先端を持って顔の輪郭に沿うよう引っ張り、手を離せば、瞬時にピンと立ち上がる。
存外しっかりとした出来のウサギ耳を相手に一人遊びに興じていたら、ふと剣呑な気配を感じた。
言わずもがな、発生源は目の前に座る男だ。
「アスクレピオス?」
「奴の思惑通りになど、させるものか」
「は?」
先ほどまでは一貫して面倒くさそうな態度を取っていたくせに、雰囲気が変わった。
嫌そうな顔をしているのはそのままだが、その身にまとう空気がものの数秒の間に一変していた。
立香がウサギ耳を拒絶せず、受容の方向に舵を切ったのが、許せないとでも言うのか。
アポロンに対する嫌悪感を共有していたマスターが掌を返し、アスクレピオスではなく太陽神を選択したのが気にくわない、とでも言うのか。
ともかく苛立ちを隠しもせず、医神と呼ばれる古代ギリシャの英霊は大股で立香との距離を詰めた。
床にしゃがみ込んでいたマスターの足下にサンダルの先をねじ込み、逃げられないように立香の頭を鷲掴みにした。ガシッと音が聞こえる勢いで左右から挟み込んで、偽物の耳の根元に合計十本の指を集合させた。
長い袖の大半が後頭部へと流れ、立香の視界の大半が白い布に覆われた。眼前に迫る銀糸の髪と、隙間から吹き込んだ荒い呼気に身震いして、彼は咄嗟に首を竦めた。
亀になろうとしたが、閉じこもる甲羅はない。頭部に張り付いた手を除けるべく両手指を差し向けたけれど、キャスターの癖してアスクレピオスの腕力はなかなかだった。
抵抗したら、余計に圧力をかけられた。
「こわいのはやめて!」
切っ先鋭いメスを見せびらかされたのを思い出し、本能的な恐怖に身震いして叫ぶ。
たとえ痛みが生じないとしても、刃物を突きつけられるのは恐ろしい。血が出ないからといって、この身に生じた肉を切り裂かれるのは背筋が凍えた。
懇願し、狭い視界でアスクレピオスの存在を探す。
瞳を泳がせる彼を真下に見て、医神たる英霊は窄めた口から息を吐いた。
「神の戯れは、祝福であり、呪いだ」
「え?」
「あの男から回って来た力など、心の底から使いたくはないんだが」
なにやらブツブツ呟きながら、立香の黒髪を指先で梳く。手つきはあくまで丁寧で、優しかった。
大きく膨らんでいた恐怖心が和らぎ、凪いでいく。
首を緩く振って顔を上げた立香の顔を両手で包み込んで、アスクレピオスは頬を緩めた。
「……わ」
力の抜けた美形の笑顔を目の当たりにした。
さすがはギリシャ随一の美形を父に持つだけある。およそ口には出せない感想を胸に抱き、火照りを訴えて赤くなる顔を隠そうと俯いた。
胸が高鳴り、鼓動が跳ねた。ど、ど、ど、と耳元で銅鑼を奏でる心臓に温い汗を流して、間近を流れた銀の髪に視線を移した。
アスクレピオスの手首を掴む指先が緩み、滑り落ちそうになった。布の皺に爪を引っかけて、掻き集めて握り直した。
ひとつ大きく息を吐けば、呼応するかのようにアスクレピオスの指が頬骨をなぞった。
布越しの感触に誘われて、恐る恐る瞳を上向ける。
「お前は、本来のお前でいい。お前はお前のままがいい。余分なものは要らない。特にあの男が附したものなど、持ち続けるに値しない。失せろ。消えろ。マスターを祝福するのは、この僕だ」
鮮やかなエメラルドグリーンの瞳に、僅かに日の出を思わせる金色が紛れ込む。
鮮烈な輝きに見つめられて、動けなかった。
息をするのも忘れて、見入った。惚けたまま、間抜けに口を開いて固まる立香を溶かしたのもまた、アスクレピオスに他ならなかった。
微熱が肌に触れた。
掻き上げられた前髪の生え際、額の中心。
一瞬遅れてやって来た柔らかい感触に、脳天を貫かれた。夢ではなく、現実世界で受けた祝福に鳥肌が立つ。悪寒が走り、追随する形で足下から熱風が吹き荒れた。
ひとりで受け止めるには大きすぎる祝福に震えが来て、両足だけでは身体を支えきれない。後ろに崩れそうになったのを必死になって踏ん張れば、今度は上半身が前に傾いた。
捕まるものを探して広げた手が、白い衣をまとう男の胸へと滑り込む。
地上にいながら溺れそうになって喘ぐ立香の頬を、耳元を、襟足を思う存分くすぐって、底意地の悪い医神は口角を持ち上げた。
「なんだ。耳などなくとも、兎のように赤いじゃないか」
寝癖が残る黒髪を滑らかに梳いて、アスクレピオスが満足げに囁いた。
こういう時だけ神様色を醸し出す男を涙目で睨み付けて、立香は無音で唇を開閉させた。

もろともに同じ梢をみどりなる 松に千年の陰を並べよ
風葉和歌集 727

2023/01/05 脱稿