綱吉の記憶が後半に行くに従って曖昧になり、集中力が途切れるのも、幼かった彼が家光の舞を途中で見飽きてしまったのが原因だろう。
しっかり手本となる舞を見ていなかったから、綱吉は同じ場所で失敗するのだ。今一度記憶を焼き直さなければ、きっとまた、昨年同様に今年も失敗を繰り返してしまう筈。
「でも、ディーノさんは」
「全く同じじゃないんだけど、似たようなのは知ってる。ていうか、多分」
中途半端なところで言葉を切り、瞳を眇めて遠くを見やったディーノはその先を語ろうとしなかった。だが唐突なディーノの申し出に驚いていた綱吉は、続きを促すにも忘れ、ぽかんとした口を数秒後慌てて閉じた。
瞬きひとつ、瞬時に影を帯びた表情を切り替えたディーノが口元を緩める。
「どうする?」
「お、お願いします!」
三年連続で雲雀とリボーンの両方から長時間の説教を受けるのは、御免被りたい。願っても無い提案であり、綱吉はつい声を大きくして身を乗り出した。
大袈裟すぎるくらいの反応のよさにディーノは一瞬面食らって目を丸くしたが、直ぐに機嫌よく頷くと扇を一旦帯に挿して両手を空にし、羽織っていた緋色の打掛を両肩から浮かせた。
右側を背に回して流し、左から引き抜く。香でも焚き付けているのだろうか、心地よい香りが綱吉の鼻腔を甘く擽った。
「これ、頼むな」
「わっ」
金色の馬を上にして、彼は綱吉の頭の真上に打掛を落とした。
当然避ける間もなかった綱吉は、柔らかではあるが塊となれば相応の重みを持つそれの直撃を食らって、堪えきれずに背中を丸めて上半身を前倒しにした。覆いかぶさる布に押し潰され、もごもごと動いて頭を突き出す。
「いきなり……」
「悪い、わるい」
むくれている彼を呵々と笑い飛ばし、一気に身軽になったディーノは細い帯に親指を左右とも差し込んで肩を広げた。深く吸った息を盛大に吐き出し、呼吸と共に心も落ち着かせて意識を集中させていく。
眼に見えて彼を取り巻く空気が研ぎ澄まされていくのを感じ、綱吉は頭に載っている打掛を後ろにずらして肩に担いだ。胸の前で両手を交差させ、左右互い違い衿を掴んで引っ張り、身体を包み込む。
ディーノの体型に合わせて縫われているからか、無論綱吉がすっぽり収まってしまうほどにそれは大きい。けれど妙な懐かしさに胸が締め付けられるようで、彼は上唇を舐めると、のろのろと首を振って考えを頭から追い出した。
同じく呼吸を整え、ディーノの動きを見守る体勢に入る。
「…………」
彼が吐いて吸う呼吸の音さえも耳に届くくらいの静寂。背筋が自然と真っ直ぐに伸びる中、とん、と床が打ち鳴らされたのを合図に、ディーノはゆっくりと滑るように動き始めた。
悠然と、流麗に。穏やかな小川のせせらぎに落ちた柳の葉が音もなく流れて行くように、ゆったりと、無駄のない自然な動きそのままに、指先が、足先が、彼の全身が空気を薙いで行く。
綱吉は息を飲み、瞬きを忘れて彼の動きに見入った。
それは嘗て父が舞ってみせたものと似て非なるもの。確かに似通ってはいるが、家光の舞はもっと無骨で、荒々しかった。目の前のディーノにはるか遠く及ばない、洗練具合は比べるまでもなく。
スッと流れた彼の踵が空中で跳ね、足の裏全体で大地を踏みしめて荘厳な音を響かせる。扇を持つ手が斜めに空を裂き、開かれた空間から現実とは異なる世界が溢れ出す。そっと撫で上げる右手が世界の理を表す印を描き出し、膨れあがる大気に現実ではない風を感じて綱吉は琥珀色の瞳を眩しげに細めた。
言葉さえ出ず、呼吸すら忘れて見入る。心臓を強く打ち、鼓舞する音無き音色に綱吉は握った拳を胸元へ押し当てた。
ざわざわと心の凪が解け、せせらぎが大きなうねりを呼んで波を引き起こす。
――なに……
目の前を舞うディーノの影がぶれる。自分の眼が映し出している景色と異なるものが、色の薄い幻影として彼の前に広がろうとしていた。
――なに、これ……
視得ているのに、見えていない。其処に在る現実とは違う、異なる時間がゆらゆらと揺れて、踵を軸に身体を反転させたディーノをふたつに分断した。
綱吉のものではない視点が、綱吉の中に根を下ろす。
緑の野、小高い丘、聳え立つ楠の根元に咲き乱れる花々。今と等しく優雅に舞を披露するディーノに、響き渡る笛の音。実際には聞こえはしないのに、綱吉の脳はまるでその場に彼が居合わせていたかの如く奏でられている曲を再生している。物悲しくも美しい、柔らかな楽に合わせてディーノが時折笑みを零す。目を閉じた彼の背中が、ひとつに重なった。
歌声が。
綱吉が右を向く、同時に見えざる景色も動いた。
黒髪、静かに揺れて。
伏していた瞼を持ち上げ、横笛から唇を浮かせた青年が綱吉を――綱吉の視線に被さる誰かを、視た。
「――!」
知る顔、否、知らない。
知らないのに、綱吉は彼が誰なのかを知っている。違う、知らない。分からない、分かって良いはずが無い。
同じではない、違う、彼ではない。それなのに同じだと心が訴えている、掻き消すようにして否定する声が高く、強く。
「ぁぁ……」
ちがう。
ちがう、違う。
ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!
震える心を必死に否定し、綱吉は強くかぶりを振って両手で打掛ごと身体を抱きしめた。
精霊会の季節は、様々な霊がこの地にも降りてくる。その中でも一際強い力を持っているディーノの、ならばこれは過去の記憶だ。人よりも深いものが見えてしまうこの瞳が、不用意に読み取ってしまっただけの彼の思い出に過ぎない。
だから、だからこれは綱吉が知っているはずのない景色。綱吉自身の過去ではない、記憶ではない。
想い出ではない。
それなのに、その筈なのに。
どうして涙が溢れて止まらないのだろう。
「――ツナ?」
呆然と見開かれた瞳から色の無い涙を零す綱吉が呼び声にハッと顔を上げれば、直ぐ目の前に心配げに顔を顰めたディーノが、薄暗い影を彼に落としていた。
「どうした? どこか痛むのか」
伸びた指が濡れた頬をなぞり、目尻までを辿って離れていく。低く掠れた声は、彼が今し方まで神楽に集中していたからだろう、僅かに乱れた金髪が首筋を撫でており、その色香に顔を赤めた綱吉は首を横に振って自分でも急ぎ涙を拭った。
泣くつもりなどなかったし、そもそもどうして泣いているのか自分でも分からない。胸を締め付ける郷愁めいた感情は瞬時に遠ざかり、もう手を伸ばしても届かない場所に行ってしまった。
今から探しても、きっともう見付けられない。綱吉は短い間隔で息を吐いて気持ちを鎮め、目元を赤くしたままディーノにぎこちなく笑いかけた。
「なんでも、ないです。ディーノさんの舞が凄いから、見惚れちゃったんですよ」
咄嗟に言い訳をして、肩を窄めて舌を出す。本当は細かいところまで見られていないし、最後も殆ど記憶にすら残っていない。いつ彼が舞いを終えたのかも覚えていないのだが、流石にそれを言えばディーノの気を悪くしてしまうだろうからやめておいた。
無理矢理ではあったがおどけてみせ、ディーノから心配の種を取り除こうとする綱吉の姿に、衿元の乱れを整えた彼は少しだけ翳りを滲ませた瞳を隠し、柔らかく微笑み返す。
「そっか。そんなに凄かったか?」
「はい」
嬉しそうに聞き返す彼にはっきりとした声で頷いて、綱吉は心の中で彼に詫びた。
ディーノは空色の瞳を糸みたいに細めると、広げた手を綱吉の頭に置いてぐしゃぐしゃに掻き回し始めた。余程褒められたのが嬉しいのだろう、高笑いなどもしてみせて、痛いくらいに人の背中をも叩いてくる。
「うわっ、も……痛いです、ディーノさん」
「おっと、悪い。……もう平気か?」
ディーノの明るさに引きずられたのか、綱吉の涙はすっかり乾いていた。元々原因不明だったのだから、忘れるのも早い。まだ滓が残っている気がして左目を軽く擦った綱吉を見下ろして、片膝を床についたディーノはその顔を間近から覗き込んだ。
不思議げに綱吉が首を傾げ、視線が交差する。
「お上手……なんですね」
「そりゃ、一応これでも神様だし」
地上を好んで放浪するディーノが別格なのであって、大抵の神格は天の宮殿で楽を奏で、詠い踊り享楽に勤しんでいる。その先に待つものは、堕落だ。神という位に甘んじて前を向いたまま後ろに進んでいる彼らを、ディーノはあまり好きではなかった。
ただ末席に座す者として、最低限の舞楽は身に着けている。出来なければ笑いものになるだけであり、それはそれで、自尊心の高い彼にとっては許しがたいことだった。
もっとも戦神であれば、舞のひとつもろくに出来ないものも多かったのだけれど。
――あれも、どっちかといえばその系統だったな……
今は思い出す事しか出来ない存在を思い浮かべ、ディーノは綱吉の鼻の頭を擽った指を下へずらし、彼の顎を持ち上げた。
「ディーノ、さん?」
「その神様の舞を目の前で見られるなんて、凄いことだとは思わないか?」
視線を固定されて逸らすのは許されず、綱吉は困惑に琥珀の瞳を揺らめかせてディーノを見返した。
雰囲気が変わった気がして、眉を寄せる。上に引っ張るようにして指を持ち上げられ、一緒になって綱吉の背筋が斜め上へと伸びた。膝が床を擦り、腰が浮きあがる。
真っ直ぐに見詰めてくる彼の目線は、さっきまでと何も変わっていないはずだ。だが、綱吉はディーノの中で生まれた異変を敏感に受け止め、緋色の打掛に覆われた身体を震わせた。
彼の手がその打掛ごと、綱吉の右肩を抱く。引き寄せられ、距離が縮まって綱吉はひとつ心臓を高鳴らせた。
抵抗しようと膝に力を込めるが、ディーノは強引に綱吉の身体を扱い、胸に仕舞い込もうとする。綱吉は腕を前に動かして彼の胸を衝き、思い切り押し返した。
けれど大人と子供以上に異なる力量の差に、一切の抗いが無意味だと教えられる。
「ディーノさんっ」
「その神様の舞を見て、只で終わらせるってのも調子が良すぎると思わないか?」
語気を強めた綱吉に対し、変わらない穏やかな口調でディーノが言う。表面上は笑っているのに空色の目が暗くて、綱吉は道場を訪れた時の彼に最初に抱いた感情を思い出した。
怖い、と。
「そ、う……ですね」
人は神仏に願うとき、祈りと共に供物を捧げるのが常だ。時には贄を献上するくらいで、無償の奉仕を神に求める事自体がおこがましいといわざるを得ない。
だがよもやディーノから供犠を要求されるとは思っておらず、綱吉は丸い目を数回連続で瞬かせてぎこちなく唇で音を刻み、頷いた。
「でも、俺……なにも、持ってませんよ」
それに、神様が欲しがるものなんて思いつかない。
神事の時は大体、干し鮑や白米、里で取れた時節の野菜などを用意する。だがそういったものはこの場に在りはしないし、今更ディーノが欲しがるとも思えない。
分からなくて首を傾げる綱吉の喉仏に指を滑らせた彼は、くすぐったがって身を捩った綱吉の腰を掻き抱いて更に距離を狭めてくる。吐息が鼻先に触れ、綱吉が避けようと持ち上げた左手は鎖骨を撫で下ろした彼の右手に抑え込まれてしまった。
「ディーノさん、あの、俺……」
「なに、そんな難しいものじゃないさ」
綱吉の額に額を押し当て、にこりと微笑むディーノが無邪気に告げる。
その笑顔こそが綱吉の心を怯えさせて、彼は必死に逃げようともがいた。だがどれほど抵抗してもすべてディーノに封じ込められ、何か妖しい術でも使われたのか、次第に身体が端から冷えて凍り付いていく。
たすけて、と音にならぬ声を唇で刻むが、雲雀に届いている感覚がしない。
壁に阻まれ、打ち返されている。まるで、数ヶ月前のあの時のように。
ディーノの手が綱吉の強張った頬をそっと撫で、包み込む。仕草はとても優しいのに、怖くてたまらなくて綱吉はかぶりを振った。
「や……」
「な、ツナ」
お前にしか出来ないことなんだ、そう嘯いて彼は。
ディーノは。
「お前、頂戴」
涙を零す綱吉の唇に、囁きを封じ込めた。
麗らかな陽射しに目を眇め、彼は砂利っぽい大地に踵をつけて身体を反転させた。
「ご機嫌ですね」
「千種がそう見えるのでしたら、そうなんでしょうね」
鼻に引っ掛けた眼鏡を押し上げたおかっぱ頭の青年に言われ、彼は含みのある笑みを浮かべて切り返した。
相変わらず飄々としすぎていて何を考えているのか、具体的なところまで全く触れさせてくれない。けれどそういう箇所が彼の魅力のひとつであると弁えている千種は、敢えて次の句を継がずに目元から手を下ろして吹いた風を腕で遮った。
会話が途切れたことに気を悪くする様子もなく、彼は袖を翻して右目を覆う前髪をそっと掻き上げた。
遠く離れた場所に黒髪を逆立てた背高の青年がひとり、その隣に蹲る金髪の青年がひとり。しゃがみ込んでいる青年は退屈そうに時折欠伸を零し、まるで獣のように後ろ足で後頭部を引っ掻いていた。
村人数人が物見遊山気分で彼らを取り囲み、若い男ばかり四人という旅芸人一座を物珍しげに眺めてはなにやら論評を展開しているようだ。まだうら若き乙女らが騒ぐ様も紛れており、注目されるのは悪くないと満足気味に様子を眺めた彼は、丁度振り返った背高の青年を手招くとその手で口元を覆い隠した。
「なんだ」
「この場は、お任せしても宜しいですか?」
大股に歩み寄ってくる強面顔ににっこりと満面の笑みを浮かべ、彼は後頭部で跳ね返っている毛先を左右に揺らした。
眠たげに目尻を擦っていた青年も、集合している三人に気付いて立ち上がる。野袴の裾を汚す砂にも構おうとせず、煤けた、元は白かっただろう上衣の胸元を広げて鋭い爪を持つ指先を中に送り込み、反対の脇腹を掻いてはまた欠伸を。
露になった、細身ながらしっかりと鍛えあげられた体躯に、眺めているだけだった女性から甲高い悲鳴があがった。しかし彼は周囲の雑音などまるで耳に入っていない様子で、ひそひそと会話を交わしている青年たちに歩み寄ると背高の彼の背中に凭れ掛かり、肩越しに輪の内側を覗き込んできた。
「どーかしたんれすか?」
「犬、眠いのでしたら一休みしてもいいんですよ」
呂律の回らない口調で問うた青年に、話の腰を折られても気にした様子を見せないで彼が言う。体重を預けられた青年はやや迷惑そうにしていたが、追い払ったところで余計に絡み付いてこられるのは目に見えていたので放っておくことにしたようだ。
「犬、寝るのは舞台を組んでから」
千種が既に半分瞼も閉じている金髪の青年の肩を小突き、眠らせないように忠告する。しかしあまり効果が無いのは言っている本人も分かっているので、そう強く刺激はしない。むしろ眠って大人しくしていてくれる方が有り難い、と思っている節も見られた。
「それで、お前はまさかこいつと一緒に昼寝がしたいと言うわけではあるまい」
人の背中を枕にして、立ったまま器用に寝てしまった犬の頭を親指で指した青年の言葉に、彼は癖のある笑みを口元に浮かべた。
ざわざわとした空気は彼らを取り囲み、落ち着く様子は無い。排他的で外からの人間をあまり好意的に受け止めない老人が多いのだろう、警戒する色を含む視線も幾つか見受けられた。
もっとも、そういった視線に彼らは既に慣れっこになっている。定住地を持たずに旅から旅の繰り返し、取り決められている年貢も納めずに各地を放浪するばかりの彼らは、土地に根を下ろし、日々汗水たらして田畑を耕しても少しも楽にならない生活に苦しんでいる人々にとってはある種の憧れであり、また目の敵にすべき存在でもあった。
最初こそ歓迎の意思が強いものの、翌日になれば掌を返したように村を追い出される。そんな毎日だ。
「勿論ですよ、ランチア。僕は犬ほど、怠け者ではありませんから」
聞いていないと分かっているから、本人を目の前にしてもさらりと酷いことを言い放つ。否、彼はたとえ犬がきちんと起きていたとしても、同じ言葉を口にしただろう。
「骸」
「少し、散歩に」
咎める口調で名を呼んだランチアをかわし、骸が意味ありげに目尻を下げる。袖から引き抜いた扇を半分だけ広げ、表情を隠して彼は遠くで佇んでいるこの村の責任者達を見詰めた。
目が合った相手が、びくりと大仰に肩を震わせて狼狽する姿が見える。己の年齢の半分にも満たない時間しか生きていない若造を前にして、実に情けない。
「……骸」
「今は手を出しませんよ、大丈夫です」
まだ、ね。
そう含みを持たせた彼の言葉に、ランチアは渋い顔を作るものの言葉には出さず、黙ってため息を零した。
「俺の裁量で構わないという事だな」
「ええ」
どうせ言ったところで聞きはしない。彼を止めるだけの力を持ち得ない自分を歯痒く感じつつも表には出さず、右肘を外に広げて腰に拳を置いたランチアが確認して、骸は笑んだまま頷いた。
ランチアが動いたことで、凭れ掛かっていた犬の身体が傾いていく。けれど誰ひとりとして落ち行こうとしている彼を支えてはやらず、さほど時間も掛からずに彼は右側からずり下がって地面へと倒れた。小気味のいい音が響き渡り、直後飛び起きた犬の悲鳴が場を騒がす。
どよめいたのは周囲だけで、骸、ランチア、千種までもが他人事を決め込んでひとり頭を抱えて騒ぐ犬を無視している。彼は両足を大きく左右に広げて打った後頭部を抱きかかえ、涙目で主にランチアと千種を睨んで恨み言を喚き散らすが、ふたりとも冷たい視線を投げるだけで構おうとしない。唯一骸だけが、楽しげにころころと喉を鳴らし、声を立てて笑うのみ。
「駄目ですよ、犬。眠る時はきちんと横にならないと」
問題は其処なのか、と聞く人がいれば思わずにいられないことを言ってのけ、骸は後を頼みます、とランチアの肩を叩く。叫ぶのをやめた犬が薄ら涙を浮かべた顔で、高い位置にある柳眉も整った骸に首を傾げた。
「おでかけれすか?」