花緒

 絢爛豪華に光が踊る。
 赤、青、緑、黄、紅、紫が粛々と、されど荘厳に。
 道を埋める人の群れは、同じく大通りの中央を塞ぐ山車を近く、遠く、物珍しげに、それでいて何処か得意げな顔をして見上げ、眺め、曰くを諳んじるひとの話に耳を傾け、鐘の音に心弾ませ、太鼓の響きに魂を揺さぶられ、通り過ぎていく。
 夏の夜らしく昼の炎天下の名残は強く、湿度は高めで蒸し暑い。人いきれがそこに加算されて体感温度は急上昇、不快指数は歴代記録を塗り替えるに違いない。
 肩や肘がぶつかり合うのは当たり前、しかも多くは日常着慣れぬこの国の民族衣装に袖を通している。見物客の総人数から換算すれば半数にも満たないだろうが、艶やかな色姿にどうしても目を奪われる。
「ツナさーん、こっちこっちー」
 そのうちのひとりが、駅前通りを抜けてなんとか集合場所に近づくのに成功した綱吉に向かって手を振り回した。
 折角綺麗な浴衣に身を包んでいるというのに、仕草はいつもと何も変わらない。そんな事をしていると着崩れても知らないぞ、と心の中で苦笑を浮かべた綱吉は、自分も同じか、とハルを囲むように集合している面々を見て肩を落とした。
「お、ツナ。甚平」
 一際目立つ背の高さを誇り、目印としてももってこいの山本が息せき切らせて前まで来た綱吉を指差して笑った。
 彼の言う通り、綱吉の出で立ちは浴衣とはまた違う、夏場の伝統着だった。膝が覗くかどうかの丈のズボンに、肩の線が露出するように胴の部分と袖の部分を太めの糸で繋ぎ合わせた上着。前を左右で重ね合わせて脇で紐を縛っているだけの簡素な衣服は、高温多湿のこの国で生み出された、夏場にはもってこいの非常に涼しい格好だ。
 色は虫除けの効能もある藍で、不規則な濃淡が斑模様を生み出している。
 足には桐の下駄。家光のお古なので、今の綱吉には少しサイズが大きい。鼻緒も年代を感じさせくすんだ色をしており、木目と擦り合う部分はかなり磨耗が激しかった。
 調整する暇が無かった鼻緒は、かなり緩い。歩くたびに踵が浮くので膝を高く揚げることも出来ず、また転ばないように注意深く進むのでどうしても足取りはゆっくりに。けれど下駄はこれしか見当たらなくて、甚平に靴というのも異様な出で立ちになってしまう。妥協の産物だと、綱吉は肩を竦めて笑った。
 山本、そして獄寺はいつもようにジーンズにラフなシャツ姿。ハルは先にも言った通りピンクに白地に向日葵柄の浴衣、最後に合流した京子もまた、ピンクに金魚が泳ぐ浴衣姿だった。
 ふたりが並ぶと華やかで、夜の街中に花が咲いたようだ。
「京子ちゃん、それ可愛い~」
「ありがとう。ハルちゃんも、よく似合ってるよ」
 女子ふたりが互いの格好を褒めあい、はしゃぐ姿を脇で眺める男三人は話についていけず、苦笑するばかり。自分も普通の格好をしてくるべきだったかと甚平の袖を摘んで汚れにも見える藍染めの跡を擦っていると、不意に振り返ったハルににこりと微笑まれてしまった。
「ツナさんも、可愛いですよ」
「ほんとうだよね~」
「はい?」
「だな、ツナってこういう格好、案外似合うよな」
「ですです~」
「いや、あの……」
 少なくとも自分は男で、可愛いと言われても素直に喜べない。しかしハルと京子が一斉に綱吉を可愛いと連呼し始め、あまつさえ山本までもがそれに同意を示す。むすっとしたのは獄寺で、彼だけはまともな精神を持ち合わせていると安堵しかかった綱吉だったが、彼が発した次の台詞を聞いた瞬間、もう駄目だと天を仰いだ。
 握り拳を固め、いつもよりアクセサリーにも気合を入れている獄寺が力いっぱいに叫ぶ。
「十代目は何を着ても可愛いっすよ!」
 ね? と瞬間的に険しくしていた表情を子犬のように緩めて振り向いた獄寺に、綱吉は一生彼と視線を合わせるものかと心に誓った。
 そうこうしているうちに周囲の人だかりは増えていき、いつまでもこの場所に居続けるには窮屈さを感じるようになっていった。ただでさえ往来の最中であり、自分たちが通行の妨げになっているのは明白な事実。話題を切り替える点も含め、行こうかと綱吉はまだ自分をネタに京子たちと盛り上がっている山本の背中を押した。
「おっと。そうだな、行こうぜ」
 先頭を切り、人ごみを掻き分けて山本が歩き出す。
 大通りの通行を制限し、車が入れないようにした歩行者天国。普段人が歩くことのない車道を堂々と歩き回れるのは、この日だけの特権だ。
 また、色とりどりに飾られた山車は鮮やかで面白く、毎年趣向を凝らしたものが展示されるので見ていてまるで飽きない。上に人が登れるようになっており、中にいる法被姿の男性が鐘や太鼓を打ち鳴らし、楽を奏でて通行人の気持ちを盛り上げるのに一役買っている。道の両脇には所狭しと、矢張り色も派手な屋台が並び、芳しいソースの匂いがそこかしこから漂っていた。
 今日は夕食も、この屋台で済ませることにしている。奈々からのお小遣いもばっちりせしめてきており、かつ祭りを二倍にも三倍にも楽しもうと、昼食後はおやつも一切口にしてこなかった。お陰で空腹感は絶頂に達しようとしていて、すきっ腹を軽く撫でた綱吉は、早速近場のヤキソバ屋前で足を止めた。
「なんだ、ツナ。腹減り?」
 焦げたソースの匂いは香ばしく、食欲を程よく刺激してくる。思わず口の中を濡らした涎を飲み込んだ綱吉の姿に、先を行きかけた山本が気づいて足を止めた。
「うん。いいかな」
「いいぜー。じゃ、俺も食おっかな」
 別に目的地があるわけではなく、ブラブラと祭り見物をするために集まったのだが、なんとなく自分が皆の行動を阻害しているようで声が小さくなる。屋台を指差して問うた綱吉に、山本はニッと白い歯を見せて笑い返し、そんな彼の不安を吹き飛ばした。
 頭の後ろにやった手を下ろし、ポケットから財布を抜き取る。綱吉も、甚平に合うようにと奈々が貸してくれた紺色の布鞄に手を入れようとしたのだが、それより早く紙幣を取り出した山本が屋台の男性に、威勢のいい声でヤキソバをふたつ、と注文を出してしまった。
「山本、払うよ」
「いいって、いいって」
 どうせみんなで箸つき合わせて分けながら食べるのだ。会計を個別にしていては面倒くさいじゃないか、と声を出して笑いながら言ってのけた山本に、綱吉は半端に袋から顔を覗かせる財布の処遇に困って唇を尖らせた。
 ハルと京子は大喜びだが、山本にばかり金を出させるわけにはいかない。少しくらいは自分の顔も立てさせて欲しいと、ヤキソバの次にたこ焼きに手を伸ばした綱吉であったが、今度は獄寺が横からしゃしゃり出て会計を済ませてしまう。
 怒らせた肩をやるせなく落とし、綱吉はどうぞ、と獄寺が差し出すたこ焼きに首を振った。
「自分で買うからいいよ」
「いえ、十代目にお支払いさせるわけには」
 自分はマフィアではないし、マフィアにもならない。獄寺の言う十代目にもなるつもりはないと、いったい何度言えば彼は分かってくれるのだろう。
 こめかみを襲った鈍痛に指を置き、溜息を零す。山本は呑気に笑うばかりで、ハルと京子も祭囃子の山車に目を奪われ頬を紅色に染めている。楽しまなければ損だというのは綱吉もよく分かっているのだが、こんなおんぶに抱っこ状態ではとても楽しむ気分になれない。
 そんなに自分は貧乏に見えるのだろうか、と浴衣と洋服が混在する祭り会場で自分の甚平を摘んだ綱吉は、闇に解けそうな濃い藍色に肩を竦め、結局は強く言い出せない自分の気弱さが悪いのだと結論付けた。
 奈々お手製の甚平はリボーンともお揃いで、手縫いであるが故に少し縫目が粗い。けれど彼女が鼻歌交じりに針を動かす背中を見ているだけに、何時かどこかで着なければとは思っていた。
「涼しいや」
 人が発する熱気が渦巻く会場は何処もかしこも見知らぬ誰かの背中ばかりで、油断すれば仲間の姿も簡単に見失ってしまう。綿菓子を所望したハルに、林檎飴が食べたいと京子がいい、山本は的当て、獄寺は射的。思い思いに祭りを楽しむ彼らを眺め、綱吉もヨーヨー釣りに挑戦しようと手持ちの鞄に手を伸ばした。
 ヤキソバ、たこ焼き、お好み焼き。水飴、から揚げ、フライドポテトに人形焼。食糧には終始困らず、欲張ってあれこれ買っては食べるの繰り返し。口の周りをソースや青海苔で汚して、変な顔だと笑われるのも一度や二度ではなかった。
 おなか一杯、満足。すっかり丸く出っ張った腹を撫でて言うと、もういいのか、とまだまだ食べ足り無さそうな山本に言われてしまう。野球少年で体つきも大きい彼は、小柄な綱吉とは体のつくりが違うのだ。ムキになって反論すれば、獄寺が拳を振り上げそうだそうだ、と綱吉に追い風となるよう声を張り上げて騒がしい。
 そんなこんなで人の波を避けながら笑って道を行く最中、
「お、あそこになんかあるぜ?」
「なに、なんですか?」
 五人の中で一番背が高い山本が、人ごみの向こう側に一際賑やかな一画を見つけて声をあげた。
 綱吉と同じ背丈なので当然見えるはずのないハルが真っ先に反応して、浴衣であるにも関わらずぴょんぴょんとその場でジャンプを繰り返す。
 慣れない下駄を履いているのに、元気なものだ。山本の見つけたものには興味あるが、ハルのように飛び上がったりはしない綱吉はちくりと痛む右足を気にして闇の中に苦い表情を隠した。
 下駄の大きさが足のサイズにあっていないのが原因だろう。それに混雑している為、人の足が頻繁にぶつかってくる。その度に下駄があらぬ方向へ跳んでいかぬよう、鼻緒を掴む親指と人差し指に力を入れて、余計に指の股が毛羽立った布地に擦られた。
 皮が捲れるまで行かないが、赤くなっているのが細い明りでも分かるくらいに見て取れて、自分の足元ばかり気にしていた綱吉は、行ってみようと京子が提案する声を聞きそびれた。
 元々周囲が騒がしかったのもある、聞こえなくても仕方が無かったろう。更に獄寺や山本も、人垣が出来ている場所で何が行われているのかが気になって、最後尾に居た綱吉の事を一瞬頭の中から忘れてしまった。
 人の波が動く。
「うあ」
 傷口に触れようと、綱吉は右足を掲げようと膝を曲げていた。腰を軽く屈め、頭の位置も下げ、無防備に。
 腰を捻って足の裏を斜め下に向けながら、左手で左足裏側に回した右足に触れる。視線は過ぎ行く人の動きに無関心で、後方から接近する集団の行方にもまるで気づかない。
 灰色の人波が綱吉に襲い掛かる。片足立ちという不安定な姿勢からぶつかってきた人は、ぶつかられた側がバランスを崩してよろめく様など目にも入れずに通り過ぎていった。続けてまた別の人が、追い討ちをかけるが如く綱吉のふらついた身体を後ろから弾き飛ばす。
 力を入れ損ねた下駄から踵が宙に浮き、遅れてついて行こうとした左足の下駄が誰かの爪先に踏み潰された。
 前に出ようとしていた足が、後ろから強引に封じ込められた格好だ。ガクンと膝が折れて綱吉の体が尚も激しく揺さぶられる。転びたいのにそれさえ出来なくて、しかも下駄を踏んだ人には邪魔だといわんばかりに足蹴まで食らわされた。
「いたっ」
 甲高い悲鳴をあげるが、相手には届かない。奥歯に悔しさを挟んで噛み潰し、瞬時に浮いた涙に視界が濁る。足元で嫌な音がした、鼻緒が切れたかもしれないと一層不安定になった身体を持て余し綱吉は端へ逃げようともがいた。
 顔を上げ、其処に獄寺たちの姿が無い事に今更気づく。ハッと息を吐き、吸い込んで、舐めた唇に残っていたソースの味さえ苦いと感じた。
 見開いた瞳に映るのは艶やかに飾られた山車、屋台の照明、知らない人の頭、明りの消えたビル。
 月さえも見えない。
 押し流す人の波は激しさを増すばかりで、流される身体は細かく引き千切られていく気分だ。巡らせた視線で懸命に山本の姿を探すが、中学生にしては背の高い彼も、これだけ多くの人が居れば埋没してしまって解らない。不安が胸の内に広がって、綱吉は涙を堪えながら更に奥歯に力をこめた。
 下駄を失うわけにはいかないと、まだ足の甲に引っかかっている鼻緒を頼りに左足を引きずる。直進しようとする人の流れに逆らって左に身体を進めるべく足掻くが、思うとおりにいかない。むしろ逆に押し返されて、道の半ばまで戻される繰り返し。
 苛立ちと焦燥感ばかりが募り、額に噴き出た汗を拭う余裕もなく、綱吉はただ人の流れにもみくちゃにされながら、このまま自分は押し潰されてぺしゃんこになるんだ、と回らない頭に熨斗烏賊となった自分の姿を思い浮かべた。
 右腕が宙を彷徨い、掴むものを求めて空を掻く。しかしぶつかるのは人の腕や肩肘ばかりで、もうそろそろダメかもしれないと、綱吉は下駄が外れて左足の裏面がアスファルトを擦る感覚に身を震わせた。
 鳥肌が立つ、その腕を。
 横から無理矢理引っ張られる。
 肩が抜けるくらいに容赦のない力の加え具合には覚えがあるが、記憶と咄嗟に結びつかない。顔を向けることさえ出来ずに居る綱吉は、横方向から加えられた誰かの力に誘導されるままに、よろめき、他人とぶつかりながら道の端まで引きずられた。
 歩道へあがる路肩の段差に爪先をぶつけ、今度こそ本格的に前のめりに姿勢が傾く。
「うああっ」
 左手は誰かに掴まれたままで、勢いづいた四肢は右手一本では支えきれない。
 屋台と屋台の細い隙間に、段ボールや屋外用の発電機が乱雑に積み上げられているのが見える。斜め下を向いたままの視界にそれらが一気に広がって、とても避けられない勢いに綱吉は全身を萎縮させて悲鳴を飲みこんだ。
 落ちる、怖い。右足も左足もただ痛くて、心まで破れてしまいそうな空気に呑まれ綱吉は目を閉じる。
 けれど、待てど暮らせど衝撃は訪れず、代わりにふわりと浮き上がった空気に支えられて心臓が止まった。肺の中に溜まっていた二酸化炭素を吐き出す、再び活動を開始した心臓はさっきまでよりも落ち着いたようでありながら、未だ酷く不安定だ。
 手酷く握られていた手首が痛む、けれどもう其処に他人の熱は残っていなくて、代わりに肩に近い上腕部分に何かが触れている。転ぶ寸前に身を守ろうと無意識に顔の前に引っ込めた腕にも正体不明のものが当たっていて、しかもしれは仄かに暖かく柔らかい。周囲の雑踏は相変わらず騒々しいが、自分を取り巻くこの場所だけ照明も届かず、スピーカーから響く轟音も届かない切り取られた空間に思えるのが不思議だった。
「暑い」
「ふえ?」
 唐突に上から降ってきた不機嫌な声に、綱吉は俯いたまま目を瞬かせた。
 覚えのある声、口調。雑音に混じって若干聞き取りづらいものの、間違えるわけがないと根拠も無く自信を持って言えるくらいに耳に馴染んだ低音に、綱吉は何度も瞬きを繰り返して乾いた咥内に唾を呼び込んだ。
 見えるのは自分の手と、その手が添えられたもの。白く、皺が寄っている。肌触りは柔らかく、しかし少し汗ばんでいるのが肌を通して伝わってきた。
「はひ?」
 呂律が回らないのは、頭が働かないのとほぼ同義だ。そんなはずが無いと否定しながらも、そうであって欲しいと願う気持ちが鬩ぎあい、葛藤の末仰ぎ見た斜め上では黒髪が発電機の起こした熱風に煽られて浮いていた。
 呆然と見開いた瞳に映る端正な顔が、視線が合ったことに気づいたからだろう、更に険しく歪められる。ハッとした綱吉は交互に視線を巡らせ、今頃になって自分の肩を支えていたものが彼の両手だと知った。
「え、あ、の……」
「通行の邪魔」
「え」
「ふらふらして」
 右に行きたいのか、左に行きたいのかも分からず、前に進もうともせずふらふらと、人の行く手を邪魔して。
 綱吉本人には分からなかったけれど、その行動は随分と目立っていたらしい。棘のある彼の物言いに、綱吉は咥内の唾を一息で飲んでから再び俯いた。
 今にも転びそうだったから助けてくれたのではないらしい、あくまでも綱吉を道から引っ張りだしたのは、綱吉が人の流れを乱していたからだ。
 風紀委員の四文字が頭に浮かぶ。盗み見た彼の袖に腕章は無かったけれど、ひょっとしなくても並盛に関わる行事には全て、彼は風紀委員として参加しているのだろうか。
 肩から手を外され、寄りかかっていた綱吉は自力で立つように求められた。しかし浮かせたままだった左足を着地させたところで抱いた違和感、ザラッとした感触が足裏全面に広がって、思わず眉を顰めてしまった。
 履いていたはずの下駄が片方、無い。
 今は直接コンクリートに足が乗っている状態であり、右足は下駄の歯の分高さがあるので体がどうしても左に沈む。バランスが悪くて爪先立ちになった綱吉に、彼もまた唇を尖らせて表情を変えた。
「落としたの?」
「たぶん。……鼻緒、切れて」
「血」
「へ?」
 何処に行ってしまったのか、途中まで履いていた記憶はあるのに。思わず後ろを振り返って人ごみの凄さに絶句した綱吉の耳に、微かな呟きが飛び込んでくる。
 瞳だけを動かして彼を見返した綱吉は、その細い瞳が若干歪み、綱吉の顔ではなく綱吉以外の誰かでもなく、綱吉の足元に向けられていることに気がついた。
 つられて自分も下を向いてみるが、特に何も見付からない。なんだろう、と首を傾げたところでいきなり黒髪が視界から消えた。
 否、綱吉の前に居る彼が突然しゃがんだのだ。
「え……あ、いたっ」
 直後に左足に強烈な痛みが走り、情けない声で悲鳴をあげてしまう。じわりと目尻に浮かんだ涙を堪えきれずに頬を濡らした彼は、蹲った彼が自分の足に触れていると二秒後漸く気づいた。
「痛っ……ヒバリさん、痛い!」
 甚平のズボンから露出する膝、それよりも少し下だろうか。下駄を失った左足の臑に手を添えた雲雀に表面を撫でられ、ぞわっと鳥肌が立つ感覚に痛みが遅れて突き上げてくる。
 そういえば誰かに蹴られた気がするが、その時に肌を削られたのだろうか。揉みくちゃにされている間はそっちにばかり気を取られていたのでまるで気付かなかったが、薄明かりに照らされた自分の身体をよくよく見れば、肘や膝にも大きな痣が幾つも出来上がっていた。
 そして雲雀の手が添えられている左足には、踝に向かって鮮やかな赤が一本の筋を作っていた。
 指でなぞられ一部が消えて、一部が色を薄くして面の範囲を広げる。
「相変わらず」
「…………」
 途中で切れた雲雀の声だが、のろまだね、と言われた気分になって綱吉は俯いたまま唇を噛む。
 自分だってまさかこんな事になると思っていなかったのだ。藍色の鞄を大事に胸に抱き込んで、綱吉は起きあがった雲雀の黒髪ばかりを見つめた。
 その彼が、すっと綱吉の横を通り過ぎていく。
「ヒバ……」
「其処にいて」
 置いて行かれると咄嗟に感じ、不安を表に出した綱吉に彼は振り返りもせず人でごった返す大通りへとまっすぐに歩いていく。ピンと伸びた背筋は威風堂々としていて、背中を丸めて気弱な態度を隠さない綱吉とは全然違った。
 モーセではないが、彼が足を踏み出すごとに人の波が自然と左右に広がっていく気がして、綱吉は目を見張る。
 実際は雲雀も、相応に人混みに揉まれていたようだが、体格がしっかりしているのと剣呑な雰囲気を全面に押し出している事で周囲の人は自ずと彼に道を譲る形だ。誰かが野太い声で怒鳴り声をあげるが、機嫌悪そうな雲雀の視線を正面から浴びて大人しく引き下がったらしい。
 ここでトンファーを取り出して大暴れでもされたらどうしよう、と密かに心配していた綱吉はほっと胸を撫で下ろす。
 山車を飾る光が明滅する。皆は今どうしているだろう、山本が見つけた一画に向かったのは間違いないだろうが、片方下駄を無くしたままでは歩き回る事さえ出来ない。
 それに、雲雀が此処に居ろ、と。
 歩道と屋台と、大通りの隙間。たまに混雑を嫌って歩道にあがろうとする人が綱吉の横を抜けていく以外、驚く程この場に人はやってこなかった。
 電信柱に寄りかかり、左足を右足の下駄に引っかける。肌に貼り付いた細かな砂の感触が気持ち悪くて、時折踝の出っ張りに擦りつけるように動かしながら、綱吉は人波に消えてしまった雲雀の姿を探した。
 程なくして彼は、鬱陶しげに長い前髪を掻き上げて綱吉の前に姿を現した。
 押しつ押されつだったのが、先に見た彼よりも若干服装が乱れているところから想像出来る。白いシャツの皺は数を増し、引っ張られたのかズボンから一部だけだが裾がはみ出ていた。
 誰かの靴跡が残る黒の革靴でアスファルトを蹴り飛ばし、雲雀は物言わぬまま身体を若干後ろに傾がせていた綱吉の足下にまた蹲った。
「あの……」
「足」
 どちらかといえば彼は人を蹲らせる側の人であり、こうも何度も目の前で姿勢を低くされると戸惑いが大きくてならない。電信柱を手で押して姿勢を戻した綱吉は、下から登ってきた雲雀の声に目を見開いた。
 どうやって見つけたのか、彼の手には鼻緒が切れた下駄が片方分、握られていた。
 雲雀はそれを綱吉の右足横に置き、左足を載せるように促す。流れていた血は乾いたものの、意識すればじくじくとした痛みが舞い戻ってきて、綱吉はそろりと膝を伸ばして古びた桐下駄に足の裏を重ね合わせた。
 散々人の足に蹴られ、踏まれたのだろう、最初から減っていた下駄の歯がもっと削られてしまっている。鼻緒もよれよれで、乱暴に扱えば簡単に引きちぎれてしまいそうだった。
 むしろまだ鼻緒が、穴二つで下駄本体と繋がれているのが奇跡にも思えるくらいに、酷い有様。無論このままではとても履いて歩くのも不可能で、親指を反り返した綱吉は爪の先でよれた鼻緒を引っかけ、持ち上げた。
 こんな事になるのなら、多少待ち合わせに遅れても鼻緒の調整をしておけばよかった。面倒くさがって家光サイズのまま履いてくるべきでなかったと、後悔したところで文字通り後の祭り。
「どうしよう」
 周囲を見回しても、屋台は食べ物や余興を供するものばかり。時間も時間なので、道の両脇を埋める店舗もその多くがシャッターを下ろしてしまっている。そもそも履物を扱っている店がこの近所にあっただろうかと、日頃あまり来ない場所なだけに地理に疎い綱吉は難しい顔をして下駄の歯でアスファルトを削った。
 まさか雲雀に、おぶって連れて帰ってくれとは言えない。そんなことを口にしようものなら、直後自分はトンファーで滅多打ちにされてしまうだろう。
 我ながら怖い想像をした、と冷や汗を拭い、綱吉はまだ下駄を見つけてくれた雲雀に礼を言っていなかったのを思い出す。
「あ、えっと、ヒバリさん。あり……」
 前屈みになり、未だ綱吉の膝元で蹲っている彼に感謝を伝えるべく、若干しどろもどろながら言葉を選び出す。だが全てを言い終えぬうちに。
 ビッ、と布を裂く音がした。
「え?」
「足、あげて」
 肩を揺らし、雲雀が短く告げる。音の発生源を見いだせないまま、綱吉は驚きに瞬きするのも忘れて言われるままに左足を下駄から外した。膝を曲げて爪先を後ろへと流す、指の腹が電信柱にぶつかって止まった。
 蒸し暑い夜にあって、ひんやりとしたコンクリートの感触が皮膚を刺す。
 雲雀は右の膝を昼の熱が残るアスファルトに落とし、自分の姿勢を安定させると、今し方引きちぎった布を更に細く二つに切り裂いた。四辺の左上を歯で挟み、右上を指で握って一気に下へと。思わず身を竦ませてしまいたくなる鋭い音が走り、綱吉はびくりと肩を震わせて一瞬だけ目を閉じた。
 三秒後、怖々縮めこませた身体を戻しながら目を開くと、今度は引き裂いた布を捻って縒った雲雀が、綱吉の下駄を持ち上げて裏返すところだった。
 今は空っぽで何も通っていない頂部の穴に指を添え、角度を調整してから紙縒状にした布の先端を表面に向かって突き刺した。
「ヒバリさん?」
「足、下ろして」
 何をするつもりなのかすぐに理解出来ない綱吉が怪訝に眉を寄せる中で、雲雀はあくまでも淡々とした態度を崩さず綱吉の左膝を小突く。慌てて冷たさが気持ちよかった電信柱から足裏を引きはがした綱吉は、彼の言う通りに左足を下駄の表面にそっと下ろした。
 だが下駄の歯はまだ空中に浮いたままで、だから綱吉の体重も右側に偏ったままだ。バランスが取りづらくて上半身が左右に揺れ、転ばないように支えを探した両手が目の前の何かを掴んだ。
 雲雀の肩に。
「あっ、いや、その」
「いいよ、別に」
 咄嗟に顔を赤くして身体を跳ね上げようとしたが、雲雀から返ってきたのは相変わらず抑揚のない、感情も読み取りづらい低い声。
 綱吉の鼻先に、雲雀の煽られた黒髪が掠めていく。
 右足だけで立ち、左足は中途半端に雲雀の手の中。彼の負担にならないように出来る限り左脚には力を入れないようにするには、どうしても前傾姿勢になって却って雲雀の肩に体重を寄りかからせる事に。
 けれどもう他に動きようが無くて、綱吉は夜闇に紛れても艶を無くさない雲雀の髪の毛を、無駄な事と想いながら本数を数えて気持ちを誤魔化した。
 心臓が、何故だろう。さっきから落ち着かない。
 雲雀の頭と自分の胸と、その僅かな隙間から覗く足下では、雲雀の指が器用に紙縒状にした布を動かして鼻緒を固定すべく動いていた。
 だらしなく垂れ下がるだけだった鼻緒が、頂点部分の穴から差し込まれた布で固定され、ピンと本来の張りがある形状を取り戻す。綱吉の足の指で挟ませて、紙縒は再び穴の中へ。下駄の裏側で両端を揃えて持った雲雀は、綱吉の踵を押して足の位置を調整させながら布を引っ張った。
「きつい?」
 いきなり足を触られたので驚いてしまい、綱吉が身体を揺らした。だがそれを別の意味で受け止めた雲雀が問うて、顔を上げる。視線が間近でぶつかって、綱吉は慌てて首を横へ振った。
「いえっ、大丈夫」
「そう。なら、これくらいで」
 言って、雲雀は布が緩みも締まりもしないように注意深く綱吉の足から下駄を引き抜いた。そして立てた膝の上で裏返し、布を二重に、外れないようにきつく縛り上げた。
 もういいよ、と表替えしにした下駄を足下に置かれる。けれど綱吉はすぐに履く事が出来ず、ひたすら呆然と雲雀を見下ろし続けた。
「なに?」
「へっ?」
 不思議そうに雲雀が顔を顰め、首を横に傾ける。黒髪の隙間から覗く漆黒の瞳は、闇よりも尚濃く、そして月よりも明るく輝いていた。
 雲雀の手が綱吉の臑を撫でる。瞳は上向けて綱吉を見たまま、彼は指の動きだけで綱吉の足の傷を探し出すと、痛がった彼の強張った表情に僅かに表情を尖らせた。
 肩に置かれた綱吉の手が力み、爪先が雲雀の細い肩を抉る。日常でこんな事をすれば容赦なく振り払われてしまうだろう、けれど今は祭りの場特有の空気が彼の心を広くしているのか、綱吉の手は其処にあるのを許された。
 すっ、と傷口の周辺を撫でた雲雀の指が一旦離れていく。思わずほっと息を吐いてしまい、綱吉はまだ自分を見ている雲雀の鋭い目を思い出して慌てた。
 何か言われるだろうかと心の中で動揺する、が、彼は無言を貫いて引き裂いた布の残りを掌に広げた。
 それは、元の形を想像するに、ハンカチだったようだ。白無地で、飾りはなく、どこまでもシンプル。皺も少なく、アイロンがきちんと当てられていたのだと簡単に想像出来る。
 それがいかにも雲雀らしいと見入って思っていると、彼は左右に細長くなるよう布を二つに折りたたみ、綱吉の左脚膝下に重ね合わせた。
 よく見えないのか、雲雀が身じろぎして姿勢を前に倒す。彼に寄りかかっていた綱吉もまた、引きずられる形で雲雀の側へ身体を沈めた。
 距離が近くなり、下向いている雲雀の眼の、思いの外長い睫毛にドキリとする。遠くで見てもそうだが、近くで見ると矢張りこの人は綺麗な顔をしている、と自分の貧相な顔つきと比較して綱吉は不思議な気持ちに駆られた。
 そんな綺麗な人が、いつもは怖くてとても近づけない人が、今自分の膝元にしゃがみ込んでいる。切れた鼻緒を即席ではあるが修繕して、その際手持ちのハンカチを躊躇無く破いた。
 其処までして貰えるだけの事を、自分は彼にしただろうか。どうして彼は、こんな風に自分に親切にしてくれるのだろう。
 後で何か見返りを求められるのか、けれどそんな雰囲気は微塵も感じられなくて、だから余計に困惑が止まらない。
 脚を撫でた雲雀の手の動きに、背筋が粟立つ。
「……っ」
 思わず身を硬くしてしまい、吐いた息の熱さに自分自身でも驚いた。雲雀にとってそれは特別な意味もない、傷の具合を確かめる為のものでしかなかっただろうに、何をこんなに緊張しているのか。
 不思議そうに視線だけを持ち上げた雲雀と、彼の前髪越しに眼があって、綱吉はばつが悪そうに視線を脇へ逸らした。
 無意識に彼の肩に置いた手に力が籠もる。これでは彼が痛い等と考える余裕も無くて、綱吉は臑を擽る布の感触に頬を染めながら必死に違う、違う、と頭の中で繰り返した。
 これは、違う。単純に雲雀が、今までこんな風に自分に触れた事が無かったから驚いているだけで、決して変な感情に起因する緊張ではないと、そう。
 脚の裏側を回った布が前に戻される。綱吉が懸命に赤い顔を隠して奥歯を噛んでいる傍で、雲雀は何の感情も浮かべずに淡々と綱吉の傷口を布で覆い、長さが若干足りないそれに苦心しながら、容易く外れないようにしっかりと端を結び合わせていた。
 患部には布の幅がある部分を宛い、なるべく傷口に遠い部分に結び目を作る。だからどうしても雲雀の手は綱吉の右足内股に当たって、時折甚平の半ズボンの裾を持ち上げるような動きも見せるものだから、綱吉のは視線の置き場に困って余計に左右へ当て所無く彷徨った。
 ぐっと握りしめた雲雀の肩の、線の細さの割にしっかりした骨組みは、数日間は目を瞑ってでも再現できそうだ。力を込めすぎた所為で本人は痛いだろうに、シャツの皺が増えて行くのも構わずに彼は、出来上がった結び目をポンと叩いて、捲れあがっていた綱吉の甚平の端を丁寧に引き延ばしてくれた。
「いいよ」
 本当は消毒してからの方が良いのだろうが、状況的にそれは望めない。だからせめて止血だけ、と切り裂いた布の残りで代用した包帯を巻いてみたのだが、まだ痛むのか綱吉は雲雀の声に無反応だった。
 いい加減寄りかかってくる姿勢を戻し、自力で立って欲しい。下駄も家に帰り着くまでなら間に合うだろうに、まだ不満な事でもあるのか。
「?」
 それとも、単に聞こえていないだけか。
 首を傾げ、雲雀は腕を下ろし疲れだしている自分の脚を軽く叩いた。ズボンの汚れも払い除け、周囲の雑踏に耳を傾ける。
 屋台からは大音響で音楽やラジオが流れ、行き交う人は互いに大声で喋っている。離れた場所に設置されたステージでは何らかのイベントが催されているようで、そちらからも時々盛大な拍手と歓声が沸き起こっていた。
 きゃはは、と甲高い声で笑う浴衣の女性がふたり、綱吉の後ろから歩道へあがろうと下駄をかき鳴らし近づいてくる。
 この状況では聞こえていなくても無理はない。ひとり結論づけた雲雀は、自分に意識を向けさせるべく綱吉の肘に外側から触れた。
「終わったよ。聞いてる?」
 ドアをノックするように肘の出っ張りを叩いた彼に、意識を飛ばしかけていた綱吉は弾かれたように顔を上げた。そして呼ばれている事に気付き、狼狽して、顔を引きつらせて急ぎ下から顔を覗き込んでいる雲雀と視線を重ね合わせた。
 彼の声は聞いていたし、聞こえていた。けれど脳細胞が巧く消化してくれなくて、綱吉は声を詰まらせて息を呑む。
 一瞬浮いた後また沈んだ綱吉の額が雲雀の前髪を押し退けて、至近距離の大きな瞳に雲雀は口元を歪めさせた。
「君?」
「うぇぁあ、いえ、はい、じゃなくって! 聞いてます、聞こ――」
 不審気味に眉を寄せた雲雀の顔を覗き込むような綱吉の体勢は、片足をあげた上で前屈みになって彼に寄りかかっていた以上、どうしようもなかった。
 顔を上げた雲雀の吐く息が近い、と感じた綱吉の動転具合に尚も顔を顰めた雲雀は、俯いている所為でよく見えない綱吉の表情を探ろうと首を伸ばす。
 そして「なに」と不機嫌な声で問おうと口を開きかけて。
 悪気は無かろうが、通行する際に邪魔だからと無防備だった綱吉の背中にぶつかり、押し退けて行った女子高生の声が遠ざかる。
 離れた場所にあるステージで、演出だろう巨大な爆音が周囲の空気を、地面さえも揺らした。目映い光が空に向かって奔り、居合わせた多くの人が天を仰いで歓声をあげる。
 その中で、お互い目を見開いたまま、綱吉と雲雀は。
「――え」
 咥内で止まっていた声が、舌の先で小さく震えた。
 意図せず食んだ感触の柔らかさに、時間が止まった綱吉は凍り付く。
 じっとりとした汗が首筋を伝う。瞬きさえも忘れて、苦しい姿勢のままなのに息さえも止めて。
 直後。
 ドンッ、と再び爆音が世界を埋め尽くした。
 歓声がわき起こり、ステージを目指す人の脚が速くなる。押し合いが始まり、喧々囂々とした雰囲気の中、綱吉は左右で色の違う鼻緒の下駄を踏み鳴らして人垣の中へ姿を消した。
 残された雲雀もまた、背後から来た人に押される形でゆっくりと立ち上がる。
「…………」
 擦り取ろうと曲げた指を持ち上げて、けれど彼は。
 触れたところで、動きを止めた。

 光と音の濁流が綱吉を包み込む。
「ツナ、みっけー!」
「ツナさん、何処行ってたんですか~。心配したじゃないですか」
「ツナ君、大丈夫?」
「十代目、良かった。すみません、俺がちゃんと注意していれば」
「……あれ、ツナ。足、どうした?」
「それに顔、真っ赤ですよ。何かあったんですか?」
「十代目、まさかお怪我を?」
「でも大丈夫みたいね、包帯……ハンカチ? 巻いてあるし」
「へ~、自分でやったのか?」
「え? ツナさん、聞こえないですよ~。どうしちゃったんですか?」
「十代目、お加減が悪いようでしたら、あっちに救護テントがありましたし、そこで」
 人混みの中、幸か不幸か合流出来た仲間の声にも答えられなくて、綱吉は赤い顔の下半分を腕で隠したまま首を振った。
 息が乱れ、呼吸が苦しい。頭の中がぼうっとして、ひとつの事しか考えられず、けれどそれは出来るなら考えたくて、綱吉は大丈夫、とどうにかそれだけを告げ、祭囃子に戻ろうと過剰に心配する獄寺の背中を無理矢理表通りに押し出した。
 足の怪我はもう痛まない。ただちくちくと、違う場所が胸を抉る。忘れたくて、綱吉は胃袋が破れるまで屋台の料理を小さな身体に押し込んだ。
 焼きそば、お好み焼き、たこ焼きに綿菓子、林檎飴。水飴、イチゴ味のかき氷。
 カラフルに彩られた無数の山車に、華々しく開催されるステージ。
 賑やかで騒々しい、夏の夜の祭り。

 舐めた唇に残っていたソースの味は、ほろ苦くも、甘かった。

2007/8/13 脱稿
2007/8/14 一部修正